スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←エピソード:アイアン・ドリーム →エピソード:マーメイド×ハピネス
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ  3kaku_s_L.png サークル
総もくじ  3kaku_s_L.png 小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 徒然雑想
もくじ  3kaku_s_L.png リンク集
[エピソード:アイアン・ドリーム]へ [エピソード:マーメイド×ハピネス]へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「小説」
チェルノボグセカンドシーズン

エピソード:バッカスの指輪

 ←エピソード:アイアン・ドリーム →エピソード:マーメイド×ハピネス
◆登場人物紹介


◆マロカ/本屋/特殊種・文喰(かつ生成)/21歳
【外見】外見的にはほとんど純粋種の人間と変わらない。短く切りそろえた濡鴉の髪の毛を持つ。額からは二本の、皮に包まれた角が生えており、これが唯一純粋種と違う部分になっている。
【人物】家族に近しい賢者以外には基本的につっけんどんな態度をとる。が、それは友達付き合いの仕方をよく知らないだけで、根はとてもいい子である。賢者の前では可愛い乙女。ものぐさな引きこもりだが、結構付き合いは良い。


◆クスフィス/古道具屋/一応獣種・猫耳肉球のみが人外/46歳
【外見】小柄な人間の少女とさして変わらない見た目を持つ。髪の毛は白髪で、ロングヘアにしている。頭には猫の耳が生え、掌には肉球があるが、それ以外は純粋種の人間と変わらない。
【人物】この集落一番の変わりもの。古道具屋だが、凄まじく商売根性が逞しい。また、生活面でも古代の人間がしていたのに近いものを送っているかなり文明的な人物。頭もいい。変わりものだが、住民たちからの人望はある。


◆ガザニカ/自警団員/水棲種・半蟹/26歳
【外見】下半身は完全に蟹。八本の脚がある。頭からは蟹の目が触角みたいに伸びている。両肘から先が完全に蟹の鋏になっている。また上半身の随所に蟹の甲殻があり、局部を隠す役割をしている。
【人物】スクラクとラクネアの娘でメルシー、リネオクン、バグラスの妹でラムの姉。初心な性格をしている。何事に対しても真面目で礼儀正しいいい子だが、恋い慕うカルジャッカのことになると突飛な行動に出ることも。


◆リネオクン/薬屋/水棲種・クリオネお化け/44歳
【外見】触角付きの白いフードを目深に被ったような頭部を持つ。目がなく、口元でしか表情が分からない。胸の辺りまでは白いが、それから足に行くにつれて水色になって行く。クリオネの遺伝子の為、二本の足は触手に近い。胸元に赤い内臓器官が透けて見える。
【人物】スクラクの次女。メルシーの妹でバグラス、ガザニカ、ラムの姉。師である先代の薬屋コイカから教えを受けたこの集落唯一の科学者。冷静な人物で合理主義者。マロカ・クスフィスと並ぶ集落の若い知識人。


◆ザントレム/宝紬見習い/精霊種・砂精/54歳
【外見】サンドゴーレムであるので不定形な筈だが、彼女の場合みた感じは中性的な麗人の風貌を常に保っている。金砂で出来ているので全身が金色に近いが。瞳は宝石で出来ている為他の部位とは色合いが異なる。
【人物】レキカの弟子。チェルノボグ一爽やかな奴。普段は賢者見習いとしてそれなりの態度を保っているが、親しいものの前では砕けた様子を見せる剽軽もの。師匠の無茶ぶりに頭を悩ませる毎日。


◆パムヴァイマ/墓守見習い/爬虫種・白蛇のラミア/48歳
【外見】白蛇のラミア。下半身は真っ白な大蛇のもの。上半身には不規則に蛇の鱗がある。これは半人半獣の形を整え切れていない為のもので、普段は服で隠している。髪の毛も肌も真っ白なアルビノ。
【人物】ラブラとコイカの娘。母二人と違って極めて礼儀正しく真面目な人物。墓守見習いとしての勉学にも積極的な優等生。クスフィスの幼馴染でもあり、彼女に思いを寄せている。が、貞淑なのでなかなか進展しない。


◆キスティ/自警団員/虫種・半蟷螂/32歳
【外見】黒い短髪の頭には蟷螂の複眼が備わっている。肩と太腿から先は蟷螂らしい形になっている。特に手首からは巨大な鎌が生える。背中から局部にかけても硬質な鎧のようなもので隠されている。
【人物】非常に寡黙。真面目な性格でもあり、水晶砂漠の見回りという不毛な任務を淡々と日々こなしている。夜の関係を抜きにすると人付き合いが少ない。ある事件で親密になったクスフィスに密かな好意を持っている。




 水晶砂漠に、風が吹く。
 今日という日は一部のチェルノボグ民にとって重大な意味合いを持つ日であった。それは夜から朝までの務めを終えて昼まで寝ていた自警団員ガザニカにとっても同様である。彼女の仕事はこのチェルノボグというオアシスの外周を回って異常がないかを調べる見回りなのだが、水晶砂漠の僻地チェルノボグに来るものなど数百年単位でしかいないし、住民も外に出ないので異常なんて全然ない。そんな退屈な、しかし疲れる仕事から上がって昼まで寝ていると、約束の時間が近づいて来る。
『あ、そろそろ行かなきゃ……お土産持って行きたいし』
 そう思ってガザニカは自分の木のウロから外に飛び出て、そのまま北の共同倉庫を目指した。途中、母親のラクネアが「おお、ガザニカや、そんなに急いでどこにいくんじゃ」と尋ねて来た。「共同倉庫に行ってから、クスフィスさんの所に行くの!」と手短に答えて半蟹の少女は全速力で共同倉庫へたどり着いた。
『新遺跡発掘会議って、どんなこと話すんだろう……北西に遺跡があるっていうのは聞いたけど……。クスフィスさんの家だし、多分お茶出るよね。そしたらそれに合うようなもの……千色茱萸でいいかな』
 これからガザニカが向かう古道具屋クスフィスの博物館遺跡では今日、最近になってその存在が証明された北西の新遺跡の発掘に関する会議が行われることになっていた。会議といっても酋長も賢者も挟まない、チェルノボグの若い有志たちの会議である。 結局ガザニカは千色茱萸を大葉俵一俵分持って行くことにした。これを探し出すのに倉庫の奥の方まで来てしまっていた。その最奥とでもいうべき所で、ガザニカは何かが落ちているのを見つけた。拾い上げてみると、指輪であった。ガザニカは記憶を呼び起こしてこれに見覚えがないか考え出した。が、どれだけ考えてもこんな指輪を手に入れた覚えはない。指輪は恐らく銀製で、なんの細工も施されていないシンプル過ぎるデザインのものだった。少なくともガザニカ本人が買ったものではないし、誰かの贈り物という線も考えづらかった。ガザニカの両腕は肘から先が完全に巨大な蟹のそれに変じていて、指輪をつける指がないのである。だからガザニカは指輪なんて買わないし、仮に誰かが贈って来たものだとしたらいじめである。
 もう少し考えてみようと思って、時間がぎりぎりだと気付く。早くいかなければならない。指輪はとりあえず持っていくことにした。骨董品に詳しいクスフィスと、今日来る筈である宝紬見習いのザントレムに見せれば何か分かるのではないかと思ったのである。
 そして千色茱萸を抱えた少女はかさこそと蟹脚を動かしながら集落南東の博物館遺跡を目指したのである。足自慢の彼女にかかれば時間までに辿り着くことなど造作もなかった。
 博物館遺跡に着くと、玄関の所でクスフィスが待っていた。
「やあやあガザニカ、遅かったじゃないか」
「あ、ごめんなさい、遅れちゃいました?」
「や、当のマロカもついさっき来たばっかりだから大丈夫だよ。案内しよう。今日はちょっと広い部屋の方がいいからね」
 そう言ってクスフィスはガザニカの前に立ち、博物館遺跡の中を進んで行き、やがてある一室の前で止まる。ガザニカには読めなかったが、『セミナールーム』とチェルノボグ公用語で書いてあった。
 そしてクスフィスが扉を開けると、確かに会議のメンバーは既に全員揃っていた。まず会議をやろうと言いだした本屋のマロカ。場所を提供した古道具屋クスフィス。この二人と北西の遺跡の存在について随分長く語らっていた薬屋のリネオクン。未知の遺跡へ行く為の護衛要員として呼ばれている自警団員のキスティ。それぞれ宝紬と墓守の賢者からの使いで寄こされた宝紬見習いのザントレムに墓守見習いのパムヴァイマ。そして最後にキスティと同じ用件で呼び出されたガザニカの、計七人が集った。
「遅くなっちゃってすみません。これ、お土産です」
 そう言ってガザニカは千色茱萸を座の中心に置いた。クスフィスは「いいお茶うけが出来たね」などと言いつつガザニカの分のお茶を淹れてくれた。
「それから……どうしよ、後の方がいいよね……」
「なんかあったの?」
 指輪のことを言おうかどうか迷っているガザニカにマロカが問う。
「いえ、実は私の倉庫の中からこの指輪を見つけて……私指輪つけられないから持ってる筈ないのに……」
 指輪を一同に見せる。しかし、それがなんなのか分かるものはいなかった。というより、みんなそろそろ遺跡の話をしたがっているようだった。
「まあまあ、とりあえずガザニカの指輪は後にして、まずは新遺跡のことについて話し合いますか」
 クスフィスが言うと、みんなの視線が一斉にマロカに向く。今回の新遺跡の鍵を持っているのはマロカであるのだ。




「何人かにはもう話したことだから、繰り返しになるけど――」
 そう前置きをして、マロカはついこの間奇縁でその存在を知った集落の北西、湖と常緑遺跡の間にあるもう一つの隠された遺跡、美術館遺跡についてのことを語り出した。ガザニカやキスティは初耳のことばかりである。マロカはそこに封印されているネクロマンサー、スプル・オーウィルという人物についても、聞いた限りのことを話した。そして最後に、信頼出来る何人かと一緒に遺跡を開放しに行きなさい、というアドライアの言葉を付け加えた。みんな神妙な顔をして話を聞いていた。そしてそれぞれが何かを考えている時間が過ぎる。
「あまりおめでたいばかりの話ではありませんね」
 沈黙を破ったのは墓守見習いのパムヴァイマであった。
「ネクロマンサーというものを今のチェルノボグに招き寄せるのは、生死の理に触れます。もちろん、マロカさんはそれをなんとかする計算があるのでしょうが……」
 パムヴァイマの言葉は墓場を預かるものとしては当然のものであった。次いで、ザントレムが言う。
「しかし、賢者様たちは美術館遺跡を開放して、かつそのスプル・オーウィルという人も釈放するつもりなんじゃないかな。少なくともレキカ様はそうだよ。あのお方は文化人としての意識が特に強いから、美術館なんて芸術の宝庫を封印させておこうなんてことは考えないんだろうけど。その点、ラブラ様とスクラク様はどうだい?」
 ザントレムの言葉は湖守の賢者スクラクの娘リネオクンと墓守の賢者ラブラの娘パムヴァイマに向けられたものだった。
「母上は美術というものを鑑賞してみたいと言っていたよ。スプル・オーウィルという人物については……あんまり言いたくはないんだけど」
 そこでリネオクンはスプルと友達になる気でいるマロカに視線を向けた。
「あくまで彼女がチェルノボグの統治に叛逆するなら、処刑もやむなしという考えらしい」
「そんな! 横暴よ、それは!」
 マロカが思わず立ち上がる。それをリネオクンは手で制する。
「まあ、あくまでも最悪の場合、という話だよ。ここにいる七人がスプル・オーウィルの考えを変えさせれば、その事態には至らないだろう」
 それでもまだマロカは不安そうな顔をしている。
「ふむふむ、まあ確かに『最悪の場合』そうなるだろうけど、マロカ、可能性は無限大に作れるよ。実際的な問題としてさ、美術館遺跡を発掘した所で、誰がその番人になるかってことが浮かんで来るじゃないか。幾ら比較的には安全とはいえ、常緑遺跡の近くにある以上害獣の侵略もあり得るわけだし」
 その言葉を聞いて、パムヴァイマが頷いた。
「クスィの言う通り、美術館遺跡には番が必要です。特に途方もない年月放置されていた区画ですから、猛獣が入り込むことは充分にあり得るでしょう。下手をすれば私たちが発掘に行った時に襲われるということもあります。その意味で、スプル・オーウィルという方がどれほど適任か、私は結構疑っているのですが、お母さまはスプルに番をさせればいいだろうと暢気に構えてらっしゃいます。自警団員のお二方はどう思いますか?」
 知識人たちの会話に唐突に巻き込まれた純粋脳筋二人は顔を見合わせて、困ったような表情を浮かべた。
「そもそも開錠の時の立ち会いって聞いてたし……けど、そのスプルって人に寄るとしか言えないかな……なんでスプルさんは美術館遺跡に封印されたの?」
 詳しい話を今日初めて聞いたキスティはマロカに補足を求める。
「ああ、そこね。どうもアドライア様によれば元々美術館遺跡に住んでたらしいわ」
 それにパムヴァイマが驚いたような顔をする。
「ネクロマンサーが美術館遺跡に、ですか」
「どういう理由かは知らないけどね」
 マロカの言葉に、クスフィスが自己完結したように答える。
「ふむふむ。なんだ、それならスプルさんがいいと言ってくれればそのまま番人を任せられるじゃないか。パムはやっぱり不安かな? ネクロマンサーを呼び起こすのは」
「そうですね……お母さまは気楽に構えていますが、何かが起こってからでは遅いので」
 どうにも真面目すぎる墓守見習いに、宝紬見習いが諭すように言う。
「けどパムヴァイマ、マロカの話ではもうネクロマンサーとしての力も削がれているらしいじゃないか。なら心配には及ばないんじゃないかな?」
「それが確かなことなら私も何も言わないのですが……実際に見てみないことには警戒するしかありません」
 パムヴァイマはスプル・オーウィルの封印を解くことにあまり積極的ではないらしい。そこにガザニカがおずおずと尋ねる。




「あのぅ……今更なんですけど、ネクロマンサーってなんですか?」
 キスティもうんうんと頷いている。知識というものに極度に無関心な二人はそれがなんだか全然分からないのである。
「死霊を呼び出して使役する術を使う一種の魔法使いだね。マロカの話では死霊を操って叛乱したっていう話なわけで、パムはそこを警戒してるんだろうけど、それ以上にアドライア様が凄まじい年月をかけてその力を削いだというなら安心じゃないかな。性格的にどうであれ魔法を奪われた魔法使いほど虚弱なものはないと、パムも知ってるだろう?」
 クスフィスの言葉にパムヴァイマが押し黙る。彼女としては愛するクスフィスに危害が及ぶ事態は絶対に避けたい。だから胸を張って、言う。
「それを確かめる為にも、美術館遺跡開錠の現場には私も立ち会いましょう」
 決意を新たにそう宣言する。
「私が言うのもなんだけど、実際どんな人が飛び出てくるか分からないから、人数は多い方が安心ね。ガザニカにキスティも来てくれるんでしょ?」
「うん」
「はい」
 マロカの言葉に自警団員二人が頷くのを見たリネオクンが口を開く。
「しかし、仮にこの七人で行くとして、それはいまいち不安だな。スプル・オーウィルがネクロマンサーなのは確かなんだろう? だとしたらある程度魔法に精通してると思うんだが、どうだね、パムヴァイマ」
 リネオクンに疑問を投げられたパムヴァイマは少し考えた。
「確かに、ネクロマンシーを習得する過程で他の魔法を習得している可能性は充分にあります。というか、普通のネクロマンサーならそうです。それを考えると魔法的な障害に対する防衛が、この七人では出来そうにない。そうでしょう? 貴女がおっしゃりたいことは」
「ご名答」
 そう、ここにいる七人のうち、腕力が関わることになればキスティとガザニカだけで事足りる。或いは狩りに慣れているパムヴァイマを入れてもいい。しかし、魔法的な力に対抗する手段は誰も持っていなかった。
「ふむふむ、すると、最低でももう一人くらいは誰かいたほうがいいわけだ。魔法を使える人が」
「先に言っとくけど、バグラスはごめんだからね」
 クスフィスの言に早速マロカが釘を刺す。リネオクンの妹でありガザニカの姉でもある氷精バグラスはなかなかに魔法に優れた人物なのだが、いかんせんマロカとの仲が劣悪を極める。鍵を持っているのはマロカなので、マロカがいやといってしまえばそれまでである。
「そうなると、クジャさんかな?」
 魔法が使える住民を頭に浮かべつつ、ザントレムが言う。酒場の店主を務める九尾の狐は魔法に達者である。
「そうなるだろうな。封印された経緯を考えれば酋長様や賢者様たちにお願いするのはかえって逆効果だろう。封印される原因になった一族と、封印を施した張本人とその系譜を継ぐものたち。出て来たスプル・オーウィルがそのまま暴れ出しても不思議じゃない。で、まあ、バグもそういうのには向いてないね。性格的に。となると自然にクジャさんしかいなくなる」
 リネオクンがザントレムの説に確実な理由を加える。
「クジャさんねえ……どんくらい使えるの?」
 酒場にほとんど行かないマロカは訝しんで問う。
「巨獣の群れ相手でも一人で足りるくらいには使えるよ。この間見せて貰う機会があったんだが、あれだけ出来れば確かにこの件に加わるのに充分すぎる実力があるだろう」
 このリネオクンの言に、クスフィスが更に付言する。
「うむうむうむ、殊にクジャさんはチェルノボグの生活の象徴みたいな仕事してるからねえ。現れたスプルにチェルノボグの現在を知らせるのには格好の人だよ」
 二人の説を聞いて、マロカは納得したらしい。
「じゃ、この七人に加えてクジャさんも呼ぶ、そういう結論でいいかしら」
 そして座を見回す。
「ボクは賛成だね」
「私も構わんよ」
「不安はありますが……クジャさんがいれば大丈夫でしょう」
「ま、他にしようもないしね」
「……任せる」
「八人もいれば、大丈夫だと思います」
 六人がそれぞれに、賛同の言葉を口にする。こういう次第で美術館遺跡発掘計画にクジャの参加が(本人の知らない所で)決定したのである。その後も七人はそれぞれにどんな準備が必要かとか、スプルにどんな話をすればいいかなんかを暫く話し合っていた。




「じゃ、今日はこのくらいかな」
 午後も結構いい時間になった頃、クスフィスが〆に入った。
「あのぅ……それなら、この指輪を見て貰えませんか? クスフィスさんにザントレムさん」
 几帳面なガザニカは会議の間もずっと指輪のことを覚えていたらしい。完全に忘却していた一同の視線がガザニカに向く。思わぬ注目に蟹の少女は「ぁうぅ……」と変な声を上げた。彼女は注目されることに慣れていないのだ。
「そういえば忘れてたね。どれ、ちょっと貸してごらん」
 指輪と聞いて金属と宝石細工を仕事とする宝紬の見習いであるザントレムは興味津々といった体で指輪を受け取った。
「どうだね、何か貴重なものなのかい」
 それにリネオクンが尋ねた。が、ザントレムは少し残念そうな顔をした。
「いや。素材は銀だけど純銀ではない。あんまり高級なものとは見えないね。クスフィス、これをどう見る?」
 言ってクスフィスに指輪を放る。受け取ったクスフィスはあらゆる角度からそれを観察していた。
「骨董品としても大して価値があるようには見えないな。出来たのは……ここ百年から百五十年といった所だね。しかしあまりにもよくある、どうでもいい指輪だよ。刻印なんかも全然……ふむ?」
「どうしたの?」
 急に何かに思い当たったらしいクスフィスにマロカが問う。
「やや、リングの内側に、消えかけてるけど少し何かの線が見える……これは……ひょっとして『紐の法』じゃないかな?」
 クスフィスが言った紐の法というのは一本の線に魔法を籠める古の魔法技術の一つである。クスフィスは観察の結果、指輪の内側に極々小さい線が円を描いているのを見つけたのだ。それをザントレムの方に突っ返す。
「どれどれ……ああ、確かに紐の法が働いてるようだね。微細過ぎて見逃していた」
「『見逃していた』じゃないわよ宝紬見習いが」
「いや……すまない」
 宝紬見習いとしての不手際を本屋に責められたザントレムは素直に謝った。マロカに何か口答えすると長くなるので。
「ふむふむ、ということはこれは魔法遺産の可能性もあるのかな? パム、どんな魔法か分からないかい?」
 この場にいる面子の中で一番魔法に詳しいのはパムヴァイマである。ザントレムから受け取った指輪を真剣な表情で覗き込んでいる。
「大したものではないようですね。ザントレムさんはどう思います?」
「私もそう思う。多分周囲に魔力を伝播させて何かしらの効果を発揮する……そういうものだよね?」
「そうですね。確かにそういうもののようです。ちょっと肝心の『紐』が細かい上に消えかけていて具体的な効果は分かりませんが」
 魔法遺産を調べる能力を持っている二人にしてもその正体が分からないということが、クスフィスの好奇心を呼び起こした。
「ふむふむふむ、それじゃあちょっとボクがつけてみよう。貸して、パム」
「いえ、しかし、危ないものかも知れませんよ?」
「だーいじょうぶだって。もしも危うくなったらボクの手から指輪をとればいいんだから」
 こうなったクスフィスがどうやっても止まらないことをよく知っているパムヴァイマは「お気をつけて……」と言いながら指輪を渡した。クスフィスは特に躊躇いもせずにその指輪を右手の薬指にはめる。計ったわけでもないのにぴったりのサイズであった。
 ――その瞬間、指輪からピンク色した光が走り、同色の霧が発生し、セミナールームを包み込んだ。
 光が晴れるとクスフィスは目をゆっくり開けて周囲を見回した。少なくとも自分に何かが起きているとは思えない。やはり周囲に影響を与えるものであるらしい。ピンク色の霧が立ち込める部屋の中、他の六人は皆一様に床に突っ伏している。




「パム! マロカ! リネオクン! ガザニカ! キスティ! ザントレム!」
 何事かと思ったクスフィスは皆に呼びかける。どうやら気絶しているらしい。それでもガザニカが真っ先に起き上がった。
「ガザニカ! よかった……何か、体におかしい感覚はないかい?」
 そちらに駆け寄ってクスフィスは問うた。が、帰って来たのは答えではなかった。
「どうして……」
「ふむ?」
「どうして私に振り向いてくれないんですかぁああ!!! カルジャッカ団長ぉおおおおおおおお!!!!」
 ガザニカはいきなり自分が恋い慕う自警団長への思いを叫んだ。思わずクスフィスは後ずさってしまった。
「ガ、ガザニカ……?」
 恐る恐る声をかけると、ガザニカは急に泣きだした。
「そりゃ確かに私はまだまだ子どもですけど! 色気だって全然ないし、自慢出来ることなんて全然ないし! 腕だってこんな、蟹の両腕で、触り心地も悪いし、胸だってぺったんこだけど、でも、でも、うわぁああああん!!! ちょっとくらい、相手してくれたっていいじゃないですかぁああああ!!!」
 突如管を巻き始めたガザニカにクスフィスはどうしていいか分からない。これも恐らく指輪の効果なのだろうが、しかしどういう効果なのか分からない。正気を失わせるものだろうか――というクスフィスの推測は、次の瞬間に確信に変わった。
 おもむろにザントレムが起き上がった。クスフィスはやはり声をかけたが、俯いていて答えない……と、思った瞬間、ザントレムは急に顔をあげた。
「わははははははははははははははははははは!!!!」
 唐突に大声で笑い出し、その場で何故かスクワットを始めた。クスフィスは呆然としていたが、少しして困惑しながら問いかける。
「ざ、ザントレム……どうしたんだい? 急に」
 ザントレムの方は一応クスフィスを認識しているらしい。その問いに答えた。
「わっはっはっは! クスフィスゥ! お前はほんとに貧弱だな! ほら、私を見ろよ! はっはっは! こんなに、こんなに鮮やかにスクワットが出来るんだぞ! わっはっはっは! ほらクスフィスも一緒にスクワットしよう! ほら! ほら! わはははははは!」
 そうして笑ってスクワットをしながらじりじりとクスフィスの方ににじり寄って来る。友人の意味不明な奇行にクスフィスは戦慄しながら後ずさることしか出来なかった。何故にいきなりスクワット。もしかして深層意識ではザントレムはこんな奴なんだろうか。そんな推測が起こる。しかしこんな場面は今まで一度も見たことがない。ザントレムは狂ったように「わはははははは!」と笑いながらスクワットを続けている。ガザニカはガザニカでしくしく泣きながら「団長ぉ……なんで振り向いてくれないんですかぁ……びぇええええん」と泣き言を言っている。ガザニカはまだ分かるがザントレムのスクワットは完全に意味不明である。一体何がどうなったら笑いながらスクワットをするなんて奇行に及ぶのだろうか。クスフィスは奇妙に冷静な脳細胞でそう考えていたが……次の瞬間、その余裕も完全に消える。
 びゅっ! っと風を切る音が聞こえたかと思うと、クスフィスは白い大蛇の尻尾に巻き取られていた。それは間違いなく白蛇のラミア、パムヴァイマの下半身に他ならなかった。
「ちょ、パム、どうしたんだいいきなり!」
 全身を絞めつけられる激痛に悶えながらクスフィスが言うと、パムヴァイマはおもむろにその唇を奪った。パムヴァイマの舌がクスフィスの口内に入って来る。またパムヴァイマはよくクスフィスの唾液を吸い取った。どちらのものでもある口蜜が二人の間に零れる。パムヴァイマはまるでクスフィスの唇をとって喰おうとするかのようにその唇を口に含んだ。そしていやに赤い舌で舐めまわす。クスフィスは非常事態であるというのに思わず少し、欲情してしまった。それ以上に大蛇に巻きつかれている恐怖の方が大きかったが。やがて、プハッと唇が離れる。
「はぁ……クスィ……愛しい、愛しいクスィ……もっとしましょう……もっと、クスィの蜜を飲みたいの……」
「いやちょっと待って! まず尻尾緩めて! 骨が、骨がああああああああ!!!!」
「ああ、離しませんよ……二十年以上も離れ離れに暮らして来たのです。……もう絶対、二度と離れない……ずっとクスィを抱いて生きていきたいのです……」
 パムヴァイマもやはり正気を失っているらしい。かなりヤバい力加減でクスフィスを絞めつつ、愛の言葉をささやく。今度はクスフィスの猫耳を口に含み出した。敏感な所を舐められたクスフィスは「ぬっひゃあ!」と色気の欠片もない声を上げる。
 どうやらこの指輪はつけたものの周囲にいたものを泥酔させるか、或いはその深層心理に働きかけて正気を失わせるものであるらしい。激痛と快感がないまぜになる中、クスフィスはなんとかそれだけのことを察した。指輪を外せば直るかと思ったが、パムヴァイマの怪力で絞めあげられている状態では右手に左手が届かない。なんとか右手の指だけで指輪を外そうとするが、薬指につけたのがまずかった。どれだけ指を動かしても一向とれる気配がない。上手く指輪を押し出せないのである、薬指にはまっていると。
『ヤバい……これはヤバい……』と思っていると、今度はマロカとリネオクンがゆっくりと起き上がった。




「よし! マロカ! リネオクン! どっちでもいいからこの指輪をとってくれ! 何かおかしいことになって……マロカ?」
 クスフィスの懇願は最後まで続かなかった。マロカが唐突にその場にしゃがみこんで、猫のように自分の顔を撫で始めたのである。
「ま、マロカ……?」
 やはりか……と思いつつクスフィスはマロカに問いかける。するとマロカは酔っ払ったようなふやけた声で答えた。
「にゃによぉ~くすひす~。私はねぇ~猫さんなのにゃ~」
 確かに猫のように体を丸めて床にへたり込む。そして自分の手を舐め出した。どうもこれは当てにならない。ガザニカはまだ泣いているし、ザントレムも「わっはっはっはっはっは!」と笑いながらスクワットを続けている。パムヴァイマは「クスィ……私だけを見てください……」とその顎をとる。クスフィスはされるがままである。
「随分お楽しみじゃないか」
 そう言ったのはリネオクンであった。
「り、リネオクン! よかった、君は無事なんだね!? 指輪を……」
 クスフィスが助けを求めた瞬間。
「オロロロロロロロロロロロロ」
 リネオクンが吐いた。頭頂部に開いたバッカルコーンから盛大に吐瀉物を吐き出している。部屋の床に異臭のする液体が広がっていくのを見たクスフィスは思わず絶叫した。
「ひぃいいいいい! 吐くならせめて用足し匣の所で吐いてええええええ!!!」
 しかし、クスフィスの声はリネオクンに届かなかったらしい。ひとしきり吐いてもまだ気持ち悪いらしく「うおっ、げぼっ、おぇっほ!」とえづいている。マロカのほうは「ごろにゃ~ん」と普段のつんけんとした態度からは考えられないことを言いつつ自分の足を舐めようとしている。
「さあクスィ……契りましょう……」
 そしてパムヴァイマはクスフィスと事に及ぼうとしている。
「ちょ、パム、待って待って! こんな所で蜜事するんじゃないよ! 人もいるし! いやそれ以前の問題だけど!」
「いいではありませんか……マロカさんたちに私たちの仲のよさを見せつけて差し上げれば……」
「いやいやいや! ザントレムも笑ってないで助けてよ!」
「わっはっはっはっは! 仲良きことは美しきかわっはっは!」
「さあ、クスィ……」
「ちょっと待ってー!」
 パムヴァイマに迫られつつ、クスフィスは必死に指輪を外そうとするが、汗ばんだ指先は銀のリングの表面を滑るばかりで取り外せない。パムヴァイマはクスフィスを絞めつつ自分の服を脱ぎ出した。いよいよここで蜜事を行おうとしている。
「キスティ! キスティー!」
 唯一まだ寝ているキスティに向かってクスフィスは精一杯呼びかける。パムヴァイマはクスフィスの衣服を自身の尻尾の隙間から少しずつ脱がせにかかっていた。あくまでクスフィスが逃げられない状態を維持しつつ。布が裂ける音が室内に響いた。必死に逃げようとするクスフィスだが、ラミアの怪力に抗えるほど彼女は健康ではない。
 クスフィスの上半身が裸になる頃、キスティがようやく起き上がった。もうあまり期待は出来なかったが、それでももうキスティに縋るしかない。唯一まだ平気そうだったリネオクンはゲロの海に倒れ込んで気絶している。
「キスティ、ボクの右手から指輪をとるんだ!」
 自分の方に歩み寄って来るキスティに、クスフィスは一縷の望みをかけて言った。しかし、無視された。代わりに、クスフィスとパムヴァイマの所まで来たキスティは蛇尾に巻かれたクスフィスの位置を力ずくでずらし、自分の方に顔を向けさせて、無言のままその唇に口づけた。
「き、キスティ……?」
「クスフィス……好き……」
 動揺するクスフィスに、キスティは蕩け切った表情で告白した。面食らったクスフィスだが、それ以上にこの行為はパムヴァイマの逆鱗に触れた。




「どういうつもりですか、キスティ……クスィは私のものですよ?」
「違うよ……クスフィスは、私の」
 どうも話は相当にこじれそうな様相を呈して来た。
「何を言うのです。私は二十年近くクスィと一緒に暮らして、そしてその後の二十年もクスィのことを思い続けて来たのですよ? 貴女にそれだけのものがありますか?」
「ないよ。ないけど、クスフィスは私と世界を繋げてくれた。パムヴァイマはどうなの。クスフィスにどれだけのことをして貰ったの」
「一夜を共にしました」
「そんなこと」
 パムヴァイマはクスフィスを絞めつけながら、キスティはクスフィスの頭を抱きながら、互いに据わった目で舌戦を展開している。クスフィスの方では「ちょ、お願いだから、せめて離して……」と幽かな呻き声をあげるばかりだ。
「そんなこととはなんです。クスィは初めてだったのですよ」
「そんなこと、なんにもならない。私の方が、クスフィスを気持ちよくしてあげられるから」
「随分言いますね。それなら試してみますか? どちらがクスィを多くイカせられるか……」
「上等だよ……」
「ボクの意思入ってませんよねそれ!?」
 クスフィスの抗議を二人は聞き入れようともしなかった。キスティは後ろからクスフィスの薄い胸を揉みしだく。一瞬、隙が出来た。指輪をとるチャンスである。が、すぐさまパムヴァイマがその左手をとって指を自分の口に含む。下半身はパムヴァイマの尻尾が股の間に来ている。
「イカせるのもいいですが、イくのも大事ですね……さあ、クスィ、キスティなんて放っておいて、気持ちよくなりましょう……?」
「何言ってるの。クスフィスは私のだよ」
 パムヴァイマは下から、キスティは上から、それぞれクスフィスの性感帯を刺激する。「ん、あぁ」と、思わず喘ぎ声が漏れた。
「気持ちいいのですね、クスィ……」
「胸とお股、どっちがいい?」
 苛める二人は明らかに快感の度合いを競っていた。クスフィスの内股が濡れるとパムヴァイマが「まあ、こんなに濡らして……いいのですよクスィ」と囁き、乳首が勃起するとキスティが「硬くなってる……もっとよくしてあげるね……」と囁く。クスフィスはもう快感でどうにかなりそうだった。誰かに助けを求めようにも、ガザニカはまだカルジャッカへの想いを愚痴っているし、マロカは猫になり切って「ごろごろごろ」と鳴いているし、リネオクンはゲロの海から起き上がる気配もなく痙攣しているし、ザントレムは相変わらず「わはははははは」と笑いながらリズミカルにスクワットをしている。全然助けて貰えそうな望みがない。パムヴァイマとキスティが腕を離す隙を狙うか、リネオクンが復活するのを待つくらいしかクスフィスに出来ることはなかった。
「ねえ、不公平だよ。私もクスフィスの苺つまみたい」
「出来るものならやってみなさい。私はさくらんぼを頂きます」
 そんなやり取りをしてクスフィスの蹂躙者二人はクスフィスの体の向きを逆にした。左腕を指輪に伸ばそうとするが、パムヴァイマに拘束されて叶わない。更にキスティが既にむき出しになった局部に舌を這わせたことで壮絶な快感が巻き起こる。最早指輪を外すどころではなかった。
『誰か助けて……』
 そう思いながらも、クスフィスの意識は悦楽の泥濘に落ち込んで行った。
 結局この日は、弟子の帰りが遅いことに腹を立てた宝紬の賢者レキカが郵便屋のルーヴァンを博物館遺跡まで使いにやるまで、大参事が続いたのである。
 ルーヴァンが訪ねた時、博物館遺跡には「わっはっはっ!!!!」とザントレムがスクワットする大音声ばかりが轟いていた。
 チェルノボグは今日も平和である。





【エピソード:バッカスの指輪《了》】

スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png サークル
総もくじ 3kaku_s_L.png 小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 徒然雑想
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ  3kaku_s_L.png サークル
総もくじ  3kaku_s_L.png 小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 徒然雑想
もくじ  3kaku_s_L.png リンク集
[エピソード:アイアン・ドリーム]へ [エピソード:マーメイド×ハピネス]へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • [エピソード:アイアン・ドリーム]へ
  • [エピソード:マーメイド×ハピネス]へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。