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「小説」
チェルノボグ

チェルノボグの住民たち

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理想郷社会の住民たち


※このページは連載『チェルノボグ』の登場人物紹介頁です。
※ブログだと見づらいので最初の一覧から気になったキャラの名前の頭に☆をつけてCtrl+Fで検索するのをお勧めします。





☆一覧



1. フィトリア……酋長(※王)/龍種/178歳
2. タマミ……巫女/?/?
3. アドライア……大賢者/精霊種/?????歳
4. レキカ……宝紬の賢者/植物種/1XXX歳
5. スクラク……湖守の賢者/幻想種/566歳
6. ラブラ……墓守の賢者/爬虫種/248歳
7. ケプリカ……雑貨屋/虫種/323歳
8. ドリメア……布団屋/幻想種/177歳
9. ラクネア……服屋/虫種/88歳
10. リネオクン……薬屋/水棲種/44歳
11. クスフィス……古道具屋/(一応)獣種/46歳
12. マロカ……本屋/特殊種/21歳
13. クジャ……酒屋/獣種/864歳
14. フモトト……魚屋/獣種/242歳
15. ミノルス……牛乳屋/獣種/183歳
16. ミガ……肉屋/獣種/134歳
17. カルジャッカ……自警団長/獣種/124歳
18. モモドメ……自警団/虫種/148歳
19. リサリン……自警団/虫種/99歳
20. キスティ……自警団/虫種/32歳
21. ガザニカ……自警団/水棲種/26歳
22. コイカ……褥守/虫種/283歳
23. ネムコ……倉庫番/精霊種/178歳
24. ルーヴァン……郵便屋/精霊種/77歳
25. バグラス……氷屋/精霊種/33歳
26. はぐれモヨコ……汚穢屋/特殊種/227歳
27. スピック……フリーター/鳥種/27歳
28. ザントレム……宝紬見習い/精霊種/54歳
29. メルシー……湖守見習い/水棲種/67歳
30. パムヴァイマ……墓守見習い/爬虫種/48歳
31. メデイン……メイド/半獣半幻想種/127歳
32. ラム……赤子/精霊種/二歳
33. ヴァルルーン……天気予報士/精霊種/666歳





一.酋長・巫女

☆フィトリア
 酋長フィトリアはドラゴンである。人間の遺伝子が入っていないではない。それはこの世界のドラゴンの特質である。様々な遺伝子を交配させた結果としてドラゴンが生まれたのだ。故に彼女も人間の姿を取ろうと思えば純粋な人間と変わらない姿になれるのだが、龍種の持つ誇りがそれを拒絶している。まず、頭には二本の大きな角が目立つ。黒い髪の毛の中から生えている同色のそれは、真ん中で曲っている。興奮するとこの角は彼女の持つ火力の為に赤熱する。そして人間の耳がある部分には爬虫類的な、或いは魚の鰭のような形状の耳がある。顔は人間とさほど変わらない。左右の目の下に>>>の字状の模様がある。背中からは如何にも龍らしい翼が生えている。尾骶骨から生える尻尾と言ったら、チェルノボグで尻尾を持っている生物の誰よりも美しく、雄々しい。手は肘から、脚は太腿から、それぞれドラゴンらしい爬虫類的なフォルムへと変じている。胴体にしても骨格の伸びる箇所には悉く昆虫の外骨格のように龍の鱗が並んでおり、服を着なくても豊満な胸の突端が露出することはない。喉元に逆鱗があり、龍である以上当然のこととしてフィトリアはこれに触れられることを極度に嫌う。そして、これら一切の龍的特徴を備えた部分は真っ黒な色をしている。唯一逆鱗のみが、まるで心臓のように、まるで鬼灯のように、まるで灯火のように、赤い。全身が素晴らしく龍らしい特徴を備えているが、一か所だけ常の龍とは違う箇所がある。それは彼女の首の後ろに襟のように並んでいる石の塊のようなものだ。肩の裏辺りから逆の肩裏まで、都合七つが並ぶ。そこには規則正しく孔が開いている。孔からはフィトリアの呼吸に合わせて熱気が蒸気となって噴出する。これは偉大なる大サラマンドラの遺伝子を継ぐフィトリアの謂わば『王冠』とでも言うべきものである。彼女は火龍なのだ。余談だが、この『王冠』に関しては未だにフィトリアは上手く扱えていない。これが役に立つのは大抵フィトリアが眠る時の枕としてである。
 このような語り尽くせぬ美貌を持つ彼女が酋長を務めているのはチェルノボグにおけるルールによるものだ。チェルノボグでは代々龍が酋長を務めることになっている。文明の香りが酷く不安定なこの集落の中で、龍種の一族は特別な力を持っている。それは一重に『火を生む』ことに尽きる。火を起こす方法がないではない。しかし、安定した火力と制御出来る程の規模とを兼ね揃えた炎はフィトリアの一族にしか生み出せない。為に彼女は集落の生活の上で最も重要な一要素を一手に担っているということになる。火という最も原初的な文明の産物はこの地において最も希少なものであった。住民が火を求めると、この寛大な誇りを持つ酋長は幾らでも生えかわる自分の鱗に炎を籠めて『火種石』として各自が持つ『火置き匣』に入れてやるのだ。彼女も母親から酋長の座を、齢五十八の歳に継いだ。龍としては若年であり、当初から既に賢者の位にあったアドライアたちの補佐の元、彼女は集落を安穏に収めて来た。丁度今は百二十年目に当たり、フィトリアの年齢は百七十八となり、龍としての威厳もようよう本格的に出て来たと言った所か。酋長の――社会的な意味合いにおける――最も重要な仕事は集落が集団として何かをする際の最終決定である。四人の賢者と一人の巫女から民の考えとこの大地の神チェルノボグの御心を聞いてそれを斟酌し、決定する。基本的には一切の決定は賢者と巫女による多数決の時点で確定するのだが、それを最終的に政令として発令し、指揮を執り、結果に対する責任を取るのは酋長の役目である。損しかない仕事ではあるが、責任の重大さは相応の見返りがあり、何よりもフィトリアの誇りの上から言えば彼女の仕事など酋長より他に何もないのである。誇りはあれど傲慢ならず、を標語にした彼女の統治は、チェルノボグの誰もが認めている。

☆タマミ


一. 賢者

☆アドライア
 アドライアほど謎多きものはチェルノボグに他にいない。彼女が果たしていつからこの地にいるのか、それは定期的に噂に上る。ある者は六千年前からいたのだと言う。ある者は初めからこの地にいたのだと言う。切りのない水掛け論争は毎度毎度本人の『そんな昔のことは忘れてしまったわ』という言葉に掻き消されてしまって、アドライア以外の三人の賢者も、酋長フィトリアも、勿論他の住民たちの誰もが知らない。本人は知っている素振りを見せるが、それが真実なのかフェイクなのか、判断する材料は存在しない。ただ、彼女の知識と来たら素晴らしく、遺跡という遺跡の内部を把握していて、これから起こる未来のことを占うことだって出来るのだ。それは一重に彼女そのものがチェルノボグという集落の記憶と共にある結果だ。
 謎のような女性は実に様々な仕事をしている。チェルノボグの中央湖のすぐ西側、『白亞の森』と呼ばれる自身の居城にて、ある時は紙を作り、ある時は食べ物を作り、ある時は住居の改築や増築、修繕を請け負い、住民が何か困っていることがあれば必ず相談に乗って、自前の植物から作った甘い果実やお菓子、そして自慢のミントティーでもてなしながら解決策を提示してくれる。そんな彼女の職業というものはとても一言には表せない為、多くの場合彼女は『大賢者様』と敬意と親しみを籠めて呼ばれる。そして本人のいない所でも『アドライア様』と親しまれている。チェルノボグで生活して行く上でアドライアの存在は必要不可欠なものであり、仮に酋長であっても軽々しく扱えたものではない。それは単純な役割上の重要性だけではなく、彼女の持つ力にも依るものだ。もしもチェルノボグというオアシスに生きとし生ける植物総てを司るドリアードたる彼女が酋長に叛逆したとしたなら、龍の炎で以っても焼き尽くせない無尽の樹海がチェルノボグを埋め尽くし、半径百キロメートルの水晶砂漠は緑に染まるだろう。それほど大いなる力を持つほどには、彼女も長生きしているらしい。もっとも、精霊種の常として非常に温和な性格をしている上に素晴らしく寛容なので、そんな事態になるのはそれこそ誰かがチェルノボグを破壊せんと暴虐を働いた場合くらいだろう。気のいい長老様、大賢者様として、彼女は集落の暮らしに非常に親しんでいる。
 アドライアの正確な外見というものは滅多に見られない。彼女は巨大な白い幹の、それこそ樹齢が何千年もありそうな大樹が本体なのである。普段他の住民と話をしている人型の姿は、あくまで利便性を重視した結果でしかない。その結果は非常に美しく、基本的に裸体である。つぶさに観察してみると、人間とほとんど変わらない肉体はドリアードであることを示す木の枝が随所から伸びており、葉と合わせてそれは原始的で煽情的な下着姿のように見える。肌の色は人間とは異なる。全体として白い部類であるのだが、薄く、しかし深い色合いの緑色が全身に満ちている。牛乳の中に深緑の雫を入れてかきまぜたらきっとこんな色合いになるに違いない。チェルノボグ一可憐な美貌と謳われる尊顔は若々しい純粋種の人間のそれだ。肌の色だけが違う。愛らしい顔立ちは常に微笑みを湛えていて、それはかえって彼女の感情を他者が窺い知るのを阻害している。無邪気に見え、事実邪気はないその笑みは、アドライアという存在が持つ大いなる謎を深めるのに大きく貢献している。そしてその顔の上にある髪の毛は幾房もの草の繊維からなり、尖端に行くにつれてそれらは集合して幾枚かの葉っぱが形成されている。樹木を司るアドライアのこと、機嫌がいい時、おめかしをする時、そういう時には頭の上に花を咲かせる。その花から香る芳しい匂いは集落の誰もが求めるほどに欲望を刺激するものだ。

☆レキカ
 チェルノボグで一番偏屈な奴は誰かという話がみんなの間で、雑談の延長線の中で立ち現れると、その雑談でレキカの名前が出ないことはまずないし、結論として『レキカ様が一番偏屈だ』とならないことなんてましてない。賢者の長アドライアを除けばこの集落で最も長生きしているレキカはそのように周囲から見られている。偏屈という言葉を頑固と言い換えてみても、それはそれで何ら差し支えがない。チェルノボグの東の外れの竹林にある工房で、この集落の政経の上で最もどうでもよく、この集落の文化の上で最も重要な宝紬という仕事を二代前の酋長の時代から任されている彼女は徹底して己の仕事に誇りを抱いている。その誇りが他のものからは偏屈だとか頑固だとか言われる原因なのである。宝紬というのは要するに装飾品を初めとした様々な『宝物』と呼ばれる工芸品を作る職人のことを指し、それにのめり込み切っているレキカが頑固と偏屈に挟まれた誇りの為に職人気質になって行くのは、ある意味では当然のことであった。実は宝紬ほど重要な仕事は、酋長と巫女を除けば他にない。基本的に集落のほとんどが全裸で暮らしているチェルノボグにおいてさえ、そこに女性しかいない関係上、レキカの造る様々な宝石細工が重宝されることは必然の成り行きであった。着飾ることを好んでしかもアクセサリまでごてごてに付ける服屋のラクネアや湖守でレキカと同じく賢者の一人に数えられるスクラク、同様に賢者にして墓守であるラブラ、一般人では一番多く宝物を持っている雑貨屋ケプリカ、光り物が大好きな変人クスフィスなんかは競ってレキカの元にそれぞれの営む仕事の成果を貢ぎ、自分好みの宝物を作って貰うことに腐心している。もっとも、レキカの方は需要の高さを知ってはいながら、あまり商売をしようという気はない。彼女はほとんどの場合、自分の作りたいものばっかり作って、それを競売に出して日々の糧を得るのだ。彼女の所有している倉庫の中には競売の結果が無数に保存されている。それは小食で食べ物以外の物品も工具さえあれば事足りる彼女にとっては宝紬に必要な鉱物を得る為の交換材料だった。
 そんな彼女がどんな姿をしているかと言うに、その特徴は一点、『痩せすぎ』に収斂する。ラクネアから貢がれた服に身を包んだ彼女がそれを脱げば肋骨は完全に浮いているのが分かるし、腹の細さで彼女の右に出るものはなく、胸肉のなさで彼女の右に出るものはなく、膝と膝を合わせた時の股間の間隙の広さで彼女の右に出るものはなかった。肉なんてほとんどついていない。右の鎖骨の下に黒い斑点がある皮膚は人間ではあり得ない灰色に緑を混ぜたような土気色をしている。これほど細い身体の上に乗る関係上仕方がないが、かなりの小顔である。子どもらしさは体と同じ皮膚の色の為と、彼女が常に渋面を作っている所為で微塵も存在せず、確かに人の顔を持ったこの集落の住人の中ではかなりの年長者に入ると一目で分かる。耳は人間と同じ位置に生えているが、細長く尖っている。髪の毛は白髪に近いベージュ色で、細かい繊維は髪の先っぽで笹の葉に変じている。こういう身体は肉体労働には如何にも不向きだが、彼女の信じられないくらい細い、指を合わせてピンと伸ばしてもその間に隙間が生まれる、関節が人より二つ多い指先は、無数の宝物を造り出すことにかけては集落で一番素敵なものであった。

☆スクラク
 湖の賢者スクラクと言ったらチェルノボグで重要な三つのもののうちの一つを司るものとして、住民たちからありがたがられ、かつ、少しばかり怖れられてもいる。彼女の仕事は湖守である。要するにこの集落に、水晶砂漠の只中に存在するオアシスに存在する唯一の水源たる中央湖を管理することである。大地から取れる要素の総てを大賢者アドライアが、文明の象徴たる火の要素を酋長フィトリアが、それぞれ司っているとすれば、彼女は総ての生命の根源たる水の要素を司っている。水晶砂漠の中にあって水は貴重なものなのだ。水脈はあるが、凄まじく深い水晶の砂に埋もれてしまっていて、水を操るものがいない限り水を湧かせることは出来ない。水脈が浅い所に存する水晶砂漠の幾つかのオアシスは幸いにして生命が生きて行く為の最低条件である『水』に恵まれている。チェルノボグでもそれは同様で、スクラクの前はメルジナという精霊種が湖守として水脈・水源を管理していた。何せ水分というものが貴重な大地のことである。湖をただ放っておくと衛生の上でも、また社会性の上でも、よくないことが起きる。疫病、水を巡っての諍い、それから発展する荒廃……それらから集落を守ることを湖守は任されている。スクラク、及び彼女の部下たる娘たちの許可なしに湖から一定以上の水を採取することは非常時を除いて犯罪である。また、水晶砂漠の不安定な季節変化のうち、湖が凍る極光の季節、干上がる旱魃の季節、この二つの時期に湖の底にある水脈を操ることもスクラクの職掌に含まれる。当然それは大きな力のいることであり、故に彼女は畏敬を籠めて賢者の一人に数えられているのである。
 しかし、スクラクは最初から湖守であったわけではない。四百五、六十年ほど前には彼女はチェルノボグで一人前の仕事をしていたが、水精スキュラと海棲種であるテンタクルの遺伝子を継ぐ烏賊脚の美女は当時、湖守のメルジナの許可の元、湖で魚を育て売り捌く漁業を行っていた。これは海の化身の遺伝子を持つ彼女だから可能なことであり、同じ海の化身であっても単に水を操るだけのメルジナよりも遥かに高度なことが出来たのである。しかし、湖守という大任を面倒臭がってメルジナに押しつけたスクラクは、それから六十年ほど後に大きく後悔することになった。ある日東方から牛頭人身の男性獣種の旅人が現れ、暫しチェルノボグに滞在した。その間にメルジナはその男に心奪われ、望むまま二人は子をなした。するとすぐさま男はその娘を連れて西方へ旅立って行ってしまった。悲嘆にくれたメルジナの涙は湖を汚し、塩分の混じったそれは水棲種でなければおよそ飲めたものではない海水へと変じてしまい、涙病にかかった彼女はスクラクやアドライアの看病虚しく儚くなった。爾来スクラクが湖の浄化と管理を任される運びとなった。美しい水色をしていたスクラクの触手状の頭髪はこの時、湖の毒性をすっかり吸引した所為で毒性を帯びた紫色の触手に変じてしまった。そして文字通り透き通る、髪と同じく水色だった肌や触手状の下半身も塩分を混ぜられてすっかり真っ白になってしまった。友人の死と自身の変貌はスクラクの人格に大いに影を落とし、爾来彼女は漁業の一切を辞めて、湖守と家族の繁殖にばかり精を出すようになった。涙病に罹らない為に、とアドライアが提言したのである。その意味でスクラクはアドライアに大きく感謝している。ぞっとするような美貌を持つスキュレーは、自身が湖を平常に戻すまで樹木から絞り出した水分で以って集落を支えていたアドライアという凄まじく年上の友人を誇りに思っている。一方でかの事件以来彼女の中に冷酷が胚胎したことも事実だ。時には湖から魚を得させる対価に相手の肉体を求め、幾人もの子を生んでは育児放棄することを繰り返していた。最近では随分落ち着いたものだが、しかし、湖守見習いとして後継者にするつもりでいるメルシーや薬屋のリネオクン、氷屋のバグラス、自警団に在籍するガザニカ、まだ言葉も話せない幼い水精ラムと、今現在でも五人も(人口そのものが少ないチェルノボグでこれは異例である)娘のいる彼女が相当な淫乱であることは疑う余地がない。

☆ラブラ
 職業に貴賎なしとは言えど、損得利害の格差というものはどうしても消し切れないものである。チェルノボグにおいてもそれは変わりなく、ラブラは最も損をする仕事をしている。彼女は墓守であり、葬儀屋であり、そして賢者の一人である。面倒な要素以外に何もない地位にあるのだ。多くの場合において陽気な集落の住人たちは墓場になんかいかないし、墓を荒らされることなどましてやないし、葬儀なんかも滅多に病気をしない上にバカみたいに生命力が強く、やることがなくなってこの世に未練がなくなったものが死んで行くか、さもなければ数十年に一度くらいは病人が出て死ぬくらいであるので、年がら年中墓守として集落の北東にある墓場で過ごしているこのコブラ型のラミアはあんまり小さな社会に馴染んでいない。二百四十八歳の彼女は賢者の一群の末席に名前を連ねている。これは大昔に今なお大賢者の位にあるアドライアと当時の酋長と他の賢者二人、そしてラブラの大分遠い祖先の間で取り決めがあったのである。チェルノボグという集落に社会を生むのであれば必ずや墓場は必要になる。なるがそんな如何にも陰気な場所の管理なんて仕事はこの陽気な集落に生きている生命体の誰もがやりたくない。やりたくなくても必要な仕事はどう足掻いても出て来るもので、アドライアを初めとする当時の識者たちはラブラの祖先にそれを託したのである。他の多くの住民と同様に享楽主義者であるラブラにはまるで理解出来ない取引であるのだが、ラブラにまで繋がるラミアの一族が墓守と葬儀屋を引き受ける、その代わりにラミアの一族は賢者の末席に名を連ね、集落にあるもの一切に不都合しない暮らしを与える……こういう厭らしい契約は、ラブラの代まで綿々と繋がって来た。頭が大分ハッピーで、ものぐさで、とんでもない淫乱のラブラにとってこの仕事は面倒以外の何物でもないのだが、一方に幾つか、これはラミアの一族としてではなく彼女個人の嗜好として一応の利点も存在した。食物にも飲み物にも服にも装飾品にも彼女は一切不自由しないのは先祖が交わした契約の通りである。加えて言えば、彼女のどう考えてもニンフォマニアと言わねば説明のつかない異常性欲とフェティシズムを思う様、とまでは行かずとも、暴走しない程度に満たすことも出来た。もしも彼女が賢者の末席に名を連ねていなければ、性交の相手を下の口で丸呑みにして、精力総てをごっちゃごちゃに吸い取るなんてアブノーマル極まる趣味はきっと許されなかっただろう。
 そんな彼女はラミア一族としても少々特異な容姿の持ち主だ。先にも言った通り彼女はラミアではあるが、普通のラミアが錦蛇を基調としているのに、ラブラにはコブラと同じ頭部のひれが存在している。体色も異なり、濃淡はあれ哺乳類的な髪の毛から妖艶な表情に金色の瞳が浮かぶ顔からだらしなさすら感じる豊満に過ぎる胸から普段は如何にも意味ありげに宝紬のレキカが作った腰飾りで隠している局部から完全に大蛇のそれである下半身の尖端まで、全身が紫色をしている。人肌の色は一切ない。虹彩にしても遺伝子の異常が起きていることを大賢者アドライアは知っている。その毒々しさすら感じさせる肢体は、しかし触れてみるとこの上ない触感を持つ。髪飾りやブレスレットやニップレスなどの装飾品はラブラの肉体をこの上なく煽情的に見せている。更に、薬屋のリネオクンが造る媚薬を常飲している彼女の吐息はそれ自体が気を変にする作用を持つ為、彼女の閨に招かれたものは皆この甘い香りの吐息にやられて彼女の蛇尾に巻かれてされるがまま胎内に呑み込まれ、気絶するまで嬲られて吐き出されるのだ。この性交の作法はチェルノボグで最もアブノーマルなものであったが、しかし、これの味を知った住民はみんな至福に包まれてしまう。そういう魔性がラブラという女性には確かに存在している。
 加えて言うと、ラブラの持つこの特質は墓守のもう一つの仕事にも役立っている。それは安楽死と処刑とを兼ねる『死売人』としての仕事である。ラブラの吐息に恍惚となりながら彼女に呑み込まれ、媚液ではなく胃液で溶かされて死ぬことは、これ以上ない程に安楽でラブラの満足の上でも非常に重要なものであるのだ。もっとも、安楽死を願うものは数十年に一人くらいずついても、刑死者はラブラの人生で僅かに二人しか存在しないし、もう百年ほどは見てもいない。そろそろ来るのではないか、などと残忍な期待をしているからこそ、ラブラという女性は集落のみんなから怖れられているのである。

二. 物品店

☆ケプリカ
 ケプリカの家は代々続く雑貨屋である。文化の多くが美食学と共にあるこの集落で使われる雑貨は大抵喰い物を乗せるザルや籠、それを運ぶ為の葛篭である。また、採集用に使われる大きな、革のベルト付きのリュックサックに似た麻袋なんかも扱っている。水を運ぶ為の桶や柄杓もここで売っている。小樽も扱うが、それ以上の大きさの樽に関しては滅多に壊れないものなので頼まれた時にしか造らない。それから火を扱う為の各種道具も扱ってはいるが、基本的にそれらは何年何十年と使うものなので新規に買うのは若いものが独立した時くらいである。こういう実用品の類のうち、よく売れている竹製品や藁製品は消耗品なので、一定のサイクルで需要の波が来る。役に立つという意味ではクスフィスの古道具屋よりもよっぽどマシなこれらの道具を作って売っている為、ケプリカはあの寝ぼけた顔の古道具屋より裕福な暮らしをしている。料理用品くらいおいていてもよさそうなものだが、この集落では金属というものをほとんど使えない関係で置いてない。貪欲なケプリカは何とかして料理用品を普及させられないものかと考えているが、例えば鍋を作る技術は宝紬のレキカの元にしかないし、そんなものを作るくらいならば彼女は同じ素材で別の宝物を作ってしまうので、夢想の範囲の話でしかない。
 こういうものを、なるべくぼったくりながら売っている彼女は虫種である。厳密にはスカラベの遺伝子が入っているのだが、スカラベ自体がチェルノボグにはいないので、住民たちは『なんかの虫か』と思うしかない。一応本人は親から聞いて知っているが、本人からして『わっちに似ているスカラベという生物がいると聞く』という認識である。虫種は下半身が二足の場合と複数脚である場合があるが、彼女は前者である。二足歩行型虫種としては極めてありふれた姿をしている。つまり、両手両脚はそれぞれ肘と膝から虫のそれに変じ、胴体の要所要所に外骨格が生えて粘膜を保護し、背中からは特に彼女の場合甲虫の羽が生え、その裏から退化した一対の副腕が生え、頭部には虫種であることを示す複眼と触角が生えている。ケプリカの場合特徴的なのは人間種の遺伝子部分の褐色と、虫種的要素の総てが黄金色をしていることである。まるで純金のような外骨格を持っているのだ、ケプリカという女性は。それだから貴金属に目がない宝紬の賢者は彼女を見る度にもの欲しそうな顔をする。ケプリカは、今ではもう慣れてしまったが、幼い頃はレキカが怖くてよく泣いていたものだ。それは未だにレキカに笑い話にされる。
 少しだけ特別な容姿の彼女は、とても規則正しい生活をしている。朝起きて『雨知らせ草』を見て天気を確認し、その日の分の水と火とを取って来てからありあわせのもので朝食を摂り、大凡昼頃までは近隣の森から食べ物を初めとした色々のものを採集し、太陽が一番高くなるとその日の成果を自宅と共同倉庫に分配して運び込んでからフモトトの魚屋で香草魚の塩焼きを買って昼食にし、そして午後は自宅兼作業場兼店舗である他の家より大分広い大樹のウロで客を待ちながら雑貨を適当に作り、夕方には必ずミガの肉屋で好物のボロック揚げを買い、暗くなった頃には酒場に行って大好物の火炎酒を呑み、気分によっては適当な相手と褥に行く。正しくチェルノボグの住人のお手本のような生活を彼女は三百年以上続けている。これだけ平坦な毎日を送りながら退屈病に罹らないのは一重にケプリカが日常を楽しむ天才だからである。三百二十三歳になり、そろそろ子どもを作ってもいいかも知れんのう……などと考えながら、日常の天才は今日も規則正しく日々を営んでいる。

☆ドリメア
 チェルノボグの食生活というものは外界に住むものにとっては少しばかり特徴的かも知れない。その特徴のいい例がドリメアである。チェルノボグの住人は何でも食べる。好き嫌いはあるが、肉も魚も植物も、加えて言えば虫を食べる文化すら存在する。こういう食物の中から好き嫌いを選択する大きな要素はそれぞれの肉体に根付いている遺伝子の作用による所が大きい。例えばバロメッツという、植物と羊を交配させた上で人の遺伝子を入れられたドリメアは元々が植物と草食動物の遺伝子を持っている為、光合成が出来る一方でアドライアが育てている植物を好む。一方で番いのフモトトが獲って来る魚も食べる。肉はそれほど好きな部類でもないが嫌いでもないと言う具合で、これもやはりフモトトに合わせて食べる。そして、羊の遺伝子を持つドリメアが食べる肉の中には自分と同じ遺伝子を持つ羊のそれも含まれている。オアシスの東の果てにある石林遺跡では上等な羊たちが無警戒に遊んでいて、肉屋のミガはそれを定期的に獲って来る。フモトトがそれを買って来るとよき妻であるドリメアはその羊肉を食べるのだ。この『自分に含まれている遺伝子を持つものを食べる』というのは、チェルノボグでは非常に一般的なことである。例えば蟹の遺伝子を持つガザニカは蟹を喰うし、魚の遺伝子を持つメルシーだって魚を喰う。それは彼女たちの中に、程度の差はあれ、一定以上の割合で混入している人間の遺伝子がそうさせている。チェルノボグの住民はあくまで自分たちを『人』と認識しているので、自分と似ている生物を食べることなど躊躇わない。
 どちらかと言うと植物の方がお好みなこのバロメッツの見た目は幻想種らしくかなり変わっている。頭に羊のそれだと分かる耳と角があり、両腕は半ばから獣のそれに代わり、要所要所に羊毛が生えてあれやこれやを隠している。そして下半身は上下逆さのトマトの果実のようになっている。無論、人間大である。そして、下半身が果実である彼女はその果実の下端から生える蔦でもって移動する。そんな彼女は、布団屋という売れない商売をしている。そもそも布団という文化はドリメアが布団屋を始めるまでこの地になかった。二十でラクネアの親に当たるアルケニーに羊毛を提供する紡績業を始めた彼女は四十になるくらいに大賢者から『布団』の造り方を教わり、それを専門にする布団屋に転職した。以来、百七十七歳に至る今までずっと続けている。布団屋と言っても、チェルノボグの住民は毛布とかけ布団しか使わない。敷布団を敷いてシーツを敷いて枕まで用意して睡眠に手間を取るバカなど変人クスフィスしかいない。賢者たちは勿論、この集落の最高位に当たる酋長フィトリアですら布団なんて使わずに裸でねぐらに横になるのだ。一応一般の住民は買ってくれるが、布団なんてそうそう買い替えるものでもないので、フモトトと番いになるまで彼女は自分の毛から様々なものに使える羊毛の繊維を提供していた。相手は主に服屋のアルケニー一族である。それでもあんまり豊かな生活ではなかったので、この集落の貧乏人がみんなそうするように彼女もオアシスでとれるものを採集しては糊口をしのいでいた。そうして、百五十歳という節目の歳にフモトトと番いになり、スピックという一子をもうけると、ようやく落ち着いて並の暮らしが出来るようになった。フモトトの魚屋はなかなかに儲かるし、自分の方で布団屋を内職みたいに続けていればこの集落の中ではかなり上等な暮らしが出来るのであった。そうして、仲睦まじいバロメッツと熊の婦妻は、やんちゃな娘に振り回されつつも、豊かな毎日を平穏に過ごしている。


☆ラクネア
 その土地のことを――人種や文化を含めて――説明する時には、その土地に生まれ育って平均的な暮らしをしているものを取り上げればいい。チェルノボグを説明する時、ラクネアほど適切なものはいないのではないか? 彼女は八十八年前にチェルノボグで生まれた。毛むくじゃらのタランチュラのアルケニーと燃えるような薔薇の花弁の頭を持つアルラウネ、そんな番いが性交して、受精した卵子を孵卵器である繭に入れ、遺伝子をいじくった結果、ラクネアは非常に美しい黒後家蜘蛛のアルケニーとして生まれた。姉には蠍の遺伝子を持つリサリンがいる。彼女の下半身は完全に蜘蛛のそれだ。下腹部から六本の脚が生えている。後ろを見れば蜘蛛の腹が伸びている。アルケニーとして彼女が特徴的である点と言えばその蜘蛛腹に赤いハートマークが生まれつき刻まれているということだろう。二親は片方が金髪、片方が赤髪であったのだが、二人はこの髪色をあまりよく思っていなかったらしく、娘たるラクネアには美しい、絹のような触感の黒髪を与えた。黒髪の下、人間の顔を基調に、目が人間と似た一対を主に、上に一対、下に二対、計八つのいずれもが切れ長で宝石のような虹彩を持って並んでいる。そんな美人の娘を持った二親はそれぞれやりたいことをやり切って、まずはタランチュラが、次いで薔薇のアルラウネが、それぞれ墓場に旅立って行った。ラクネアが三十路になる歳と、半世紀記を迎える歳のことであった。どちらも充分に死ぬ理由を聞かされて互いに納得した上でのことであるので、ラクネアは悲しみはあれど激情はなしに二人をそれぞれ見送って、今でもたまに、姉のリサリンと一緒に墓参りをする。
 ラクネアは仕事の上でもチェルノボグの特徴を最もよく表していると言ってよかった。二親から継いだ服屋を営んでいる彼女は、被服を作ることも好んでするし、また自分自身を着飾ることにも余念がなかった。綺麗に結い上げた黒髪とキリリとした美貌を存分に輝かせ、豊満な肉体を布に隠すことが彼女は何より好きなのである。服の種類は色々で、毎日毎日着る服の趣向が変わる。ある日は喪服に似たゴシックドレスを着ていたかと思うと、次の日は真っ赤な、黒い糸で彼岸花の刺繍を入れた和服を着ていたりするのだ。文明というもの自体が娯楽の対象以上の意味を持たず、その気になれば食う寝るセックスだけで一生を安楽に終えられるチェルノボグの住人を代表するかのように、彼女も文明の産物を単なる娯楽、人生を彩るものの一つとしてしか使っていない。ラクネアは心の中で自分ほど美しいものはチェルノボグにないと思っているが、一方で他人を着飾らせることも好む為、小さな集落のお祭りではみんな彼女が作った服を着て大騒ぎするのだ。彼女もそれを楽しみにしていて、浴衣なんか持ち出した日には喜んで着付けをしてくれる。どんな服にも調和する見事な刺繍を自慢にしている気のいいお姉さん、それがラクネアである。

☆リネオクン
 彼女の姿がなんであるのかを適切に言い当てられるものはチェルノボグの中でもそれほどいない。一言で種を明かしてしまえばリネオクンはクリオネと人間を合わせたような姿をしているのだが、水晶砂漠の中にあるオアシスでクリオネを見る機会などまずないので、賢者たちとクスフィス、マロカ辺りの知識人でなければ『ああ、こいつの姿はクリオネだ』と考えることは出来ない。他の多くの住人は『リネオクンに似たクリオネという生物がいるらしい』としか認識していない。湖の賢者スクラクの娘たちの内、最も母親に似ている彼女は、母と同じ軟体動物的な特徴を幾つか持っている。爪先からよくよく見ると、確かに二足歩行をする部類に入る彼女の脚にはまったく関節がない、一対の触手であることがすぐに察せられる。青い脚は腰から変色を始め、胸から上に行くにつれて白くなって行く。それなりに豊かな胸が青と白とのグラデーションが劇的に変化する境界であるらしい。また、胸元には彼女の文字通り透き通った肌の奥に赤い珠が確かに見える。頭っから見ると、どう見ても彼女の頭部は白い、ピコンと二本の触角の生えた頭巾を目深に被っているようにしか捉えられない。それは彼女の地肌であり、上手く人間の形を整えられない四十四歳の彼女は髪の毛のない頭巾状の頭の下にいつも薄く微笑を湛えた童顔を付けている。この童顔にしても、白頭巾状の頭にしても、彼女の『本来の口』を隠す為の擬態でしかない。初めてそれを見た集落の人々は驚いて腰を抜かしたものだが、彼女は頭部を縦に二分割してものを食べる。みんな今では慣れてしまったが、人間側の口からものを食べるということが彼女は苦手なのである。そして頭巾のような頭部から続く肩はマントでも羽織っているような白いヒレがある。その中から伸びる両手は真白く、とても清潔な印象を見るものに抱かせる。
 その白い清潔そうな手はリネオクンの仕事の上ではなかなかに役に立つものであった。彼女は薬屋である。同時に化学者でもあり、日夜様々なみょうちきりんな薬を作っては誰かに試せないものかと獲物を探しているのだが、誰も相手にしてくれるものがない。そもそもチェルノボグの住人は病気なんか数年に一度もしないくらいなので、薬局の存在価値はさほど高くないのである。もしも、リネオクンがそんな不要な仕事で生計を立てられている原因を探ろうとすれば、それは蜜事に使う為の媚薬であろう。リネオクンは媚薬造りのプロなのである。完全に享楽の対象としてしかこの集落ではあり得ない性行為を快適に行う為の媚薬は快楽悦楽享楽放蕩が大好きな集落のみんなに重宝されている。もしもリネオクンが媚薬を作るノウハウを先代の薬屋であり現在は褥守をしているコイカから得ていなければ、彼女は一切の贅沢を絶たれたに違いない。一応、本人としてはちゃんと薬剤師らしく集落のみんなの健康を真面目に祈願しているのだが、不真面目な連中はその無尽の不真面目さ故、年がら年中健康過ぎるので、この祈願は杞憂の部類でしかない。

☆クスフィス
 クスフィスと言ったら、チェルノボク一番の変わり者だ。誰もそれを疑わない。酋長も賢者たちも、大人も子どもも、おねーさんも、『クスフィスは変な奴だ』という意見には必ず頷きあうのだ。一方で、集落のみんなは『クスフィスほど愉快な奴は他にいない』という考えでも一致しているのである。ある意味では人望がある、とも言えるのではないか?
 そんな彼女は外貌の点から言ってもこの集落ではかなり変な奴であるのは間違いない。彼女の首から下は完全に人間の少女のそれである(唯一、掌に肉球が浮いているくらいだ)。全体に貧相で成長の気配なんかは微塵も見えない。本人はそんなことを気にかけたりしない。しかし、彼女はもう四十六年も生きているというのに、子どもっぽい身体に子どもっぽい性格がいつまで経っても変わらないのだ。親が子の遺伝子を決められるチェルノボグにおいて、多くの場合二十年を生きたものは豊満な肉体に育っているのが普通なのだが、クスフィスにはまるでそんな気配がない。そんな貧相な肉体の上に乗っている頭も人間とほとんど変わらない。顔にはいつも眠たそうな表情を湛えている。しかし彼女は存外しっかり覚醒していて、話し方にそんな眠たそうな感じは少しもない。そして、彼女の特徴と言ったらこの表情と、耳だ。人間と変わらないような頭部を持ってはいるが、人間の耳があるべき位置に耳はなく、頭部に白い髪の毛と一緒に同色の猫か何かの耳が生えている。これだけしか彼女が人間と変わる処は存在しないのだ。肉体が様々に人間離れしているチェルノボグで、これほど人間に近い姿をしているのはクスフィスと、精々マロカくらいのものだろう。
 そんな愛すべき変人は古道具屋を営んでいる。彼女が変わっていると言われる原因の大半はここにある。集落の南東にある博物館遺跡の中に眠っている旧時代の遺産を掘り出して、今ではマロカの家である図書館遺跡で使い方を調べて、いじり回すのを何年も続けているのだ。過度な文明を蔑みする傾向にあるチェルノボグの中ではそれだけで変人の烙印を押されるには十全であった。クスフィスの興味と来たらそれは素晴らしいもので、好奇心がある限り彼女は必ず死ぬことがない。それも集落みんなの共通見解で、この点に関してのみは、クスフィス当人も認めていた。
つい最近、彼女は細長い長方形の枠の中に幾つもの軸と妙な形の珠のような木片が規則正しく並んでいる妙なものを見つけた。早速これをマロカから買い取った百科事典で調べてみると、これは算盤というもので、計算をする為に作られた東洋の道具なのだということを知ってがっかりしてしまった。彼女は算盤を計算機ではなくマッサージ道具なのじゃないかと思っていたのである。計算好きではない彼女は郵便屋のルーヴァンに頼んで算盤の宣伝をして貰うと、都合よく賢者レキカがそれを欲したので、凄まじい値切りとぼったくりの合戦の末、うんと凝った趣向のブローチをレキカに作らせることに成功した。クスフィスはとても享楽的な耽美主義者であるので、銀を基調にし、鞍の部分にルビィを使い、そして輿には金とルビィと真珠とが散りばめられたレキカの傑作である象のブローチを記念に寝室に飾っているのだ。こんな塩梅で愉快な奴は愉快な毎日を送っている。眠たそうな顔をしながら。

☆マロカ
 非常な半人外連中の中でマロカほど浮いているものはそうそういない。彼女の肌はとても白いが、それは純粋種の人間であっても持ち得る白さだ。些か病的な気配は拭えないにしても、あまり特徴的だとは言えない。肢体は人間年齢にして精々が十四歳程度だろう。豊かとは縁遠いが、貧相とも言い切れない。或いはこれは彼女に成長の余地が残っている証明かも知れない。実際の年齢はそろそろ二十二に手が届こうかというくらいで、その気になれば何百年も生きるチェルノボグの住民たちの中では全然、少女の部類に入る。丸く短いショートヘアの髪の毛は黒く、艶やかな濡烏であったが、これもやはり、美的に過ぎるにしても人間でも持ち得る類のものだ。マロカの肉体全体の中で殊に描写を要する部分は一つしかない。眉毛の上、額から肌に包まれて未だ完全に尖り切っていない角が生えている。彼女は生成なのである。じっとりとした座った目がその下に続いているが、顔もやはり、美少女の部類であるにしてもそれは人間と違いがない。彼女が人間とは異なるのは結局の所、どれだけ観察してみても、『角』の一点のみしかないのだ。
 その不健康な肌の色から即座に連想されるように、マロカはあまり外に出る類のものではない。彼女は文喰である。チェルノボグの南西、図書館遺跡に、この集落にいるものが基本的にそうであるように、一人で住んでいる。ここは遥か昔に水晶砂漠が出来た時に、他の多くの建物と共に砂に沈んでいたのを、彼女の父が掘り起こしたものだ。マロカの父はチェルノボグの外から来た人間で、この図書館遺跡を発掘した偉人であった。妻は、この地にしては珍しく一人しか持たず、ラプンツェルの女性を娶り、マロカを生み、そうしてどういうわけだか夫婦二人で死んでしまった。幼いマロカは酷く嘆き、動揺し、自分勝手な大人に怒りさえも覚えた。今では幾分落ち着いてしまったが、この集落の賢者たちが教えてくれない両親の真相についての興味は尽きることがなかった。マロカはもしかすると知恵をつければお父さんお母さんのことが分かるのじゃないかしらと思い立って、図書館遺跡にある書物を片端から喰らって一日を過ごしていた。文喰とはその名の通り文を食べるものだ。マロカが本を開いて、口を大きく開けて、大きく息を吸い込むと、活字が悉く宙に浮かんで、彼女の口の中に収まってしまう。後には白紙になった本が残る。マロカが食べた文章を充分に吟味し、消化し、排泄すると、文字たちはマロカの舌鋒から本の中に戻って行くのであった。こういう彼女の種族としての特性はそのまま彼女の仕事に役立つものであった。図書館遺跡を酋長と賢者たちから任された彼女は、チェルノボグでは珍しい文明の産物、つまり本、そこに書かれた情報を扱う本屋を開いている。とは言え、チェルノボグの住人たちのほとんどは本なんか読まず、文字すら読めず、生まれ持った本能を満たし、日々の生活の中で起こる様々な事物に耽溺するのに忙しく、マロカの本屋は万年閑古鳥が鳴いている有様であった。時折、古道具屋で彼女と同じく変な特徴を持つクスフィスや、薬屋という如何にも文明的な仕事をしているリネオクンが来て、それぞれの仕事に必要な書物を買って行ってくれる。もっとも、この二人が物々交換の末に置いて行くのはマロカにとって心底どうでもいいガラクタか媚薬のいずれでしかなく、ものぐさな彼女は広大な図書館遺跡の中にそれを適当に放っておいて手もつけない。賢者たちは彼女を随分気にかけてくれて、よく差し入れを持ってきてくれる。だから彼女は広大な書物の沃野に浸りながら、寂しいなんて思ったことは両親が死んで後、一度としてなかった。

三. 食料品店

☆クジャ
 チェルノボグという土地で最も雄々しい美しさを持つ尻尾の持ち主がドラゴンたる酋長フィトリアであるとするならば、最も華やかな尻尾の持ち主はクジャであると言えるだろう。狐の遺伝子を持つ彼女の尻尾は実に九本にも上り、その一切が金色の美しい、上質な毛に覆われているのである。この九つの尻尾は最初から持っていたわけではない。由緒正しい酒場の九尾一族は初めから持っている一本を基本にして、百年を生きるごとに新しい尻尾が一本生えて来る。それを九つ持っているということは、クジャが既に八百年を生き抜いて来たことの証明であった。実年齢は八百六十四歳にも上る。この年齢は大賢者アドライア、宝紬の賢者レキカに次いで、チェルノボグで第三位に位置する古老である。賢者であるスクラクやラブラよりも数百年年上に当たる彼女は、集落の生活の象徴である酒場を守ることに腐心していて、賢者に相当する力を持ちながらそんな面倒な地位には一切興味がない、実にチェルノボグらしい気質の持ち主である。クジャは獣種にしては珍しく、あまり体毛を生やして必要な個所を守る、ということをしない。美しい金のロングヘアーがたなびく頭には狐の耳が生えていて、獣種の多くがそうであるように掌には肉球がある。逆に言えばその二つと尻尾以外の点で彼女は完全に人の姿をしているのである。別段獣の姿を取れないではないが、丁度酋長フィトリアがそうであるように、彼女も九尾の狐としてのプライドから純粋な獣の姿も、純粋な人間の姿も、敢えて取らずに半人半獣の形を保っている。
 そんな姿を服屋のアルケニー一族から買った着物に包んだ彼女の仕事は集落のみんなにとってこの上なく重要な意味を持っている。美食学が、享受する側ばかり発達していて教授するものがいないこの集落の中で酒場ほど餓えた味覚を満たしてくれる所は他にない。肉であれば現在はミガが継いでいる人虎一族の肉屋があるが、殊に『酒』に関して九尾の一族ほど秀でたものは他にいない。何代も前から続いている酒造りの技術はオアシスの外のものと何ら変わりがないほどに進歩している。尽きることのない酒への欲望は遂に世界の中でチェルノボグにしか存在しない酒を造ることに至った。偉大なる大サラマンドラの系譜に連なる酋長の家系に懇願して対価を出し、その鱗を分けて貰い、それを特殊な製法で酒に入れ込んだ『火炎酒』と来たら、舌に乗せた瞬間に脳髄や脊髄が焼ける程に激烈な刺激をもたらしてくれる。しかもこの酒は龍種の鱗を使う所為で非常に健康にいい。これが完成したのはクジャの前の代であり、今では製法をちゃんと知ってるものはクジャしかいなくなってしまった。そして先代であるクジャの母はこの火炎酒が完成し、その味と効能に何らの偽りもないと確かめると、その出来に満足し切ってうっかり死んでしまった。クジャも何か自分の代に新しい酒を生み出せないものかと数百年間頑張っているのだが、どうにも火炎酒程の銘酒はなかなか生み出せないので不満に思っている。もっとも住民たちからすればそんな職人気質の悩みなんぞどうでもよく、副産物として生まれた一生かけても呑み明かせないほどに多種多様な酒を得る為に日々を送っている。クジャはクジャで自分の造る酒がみんなに喜ばれるのを喜びにしているので、結果としてチェルノボグ唯一の酒場は毎晩盛況なのである。

☆フモトト
 チェルノボグは性にだらしない集落である。例えば婦妻、これは多くの場合番いと呼ばれるが、それに相当する相手がいても別のものと寝たり子どもを生んだりもする。そして遺伝子改竄技術が残っているチェルノボグにおいて子が親の姿と似ていないということもままあるのである。フモトトの場合、彼女自身は半人半熊の姿をしている。しかし、母は美しい鱗を持つ半魚(人魚ではない)と麗しい栗色の毛並みを持つ人馬であった。一応獣種の遺伝子は継いでいるが、一方で魚種の性質はフモトトの肉体のどこにも見られない。また、人馬即ちケンタウルスの遺伝子も彼女には見られない。熊の遺伝子を持つ彼女は他の大抵の獣種と同じく人間の顔に獣の耳を備えた頭部を持つ。肉体も人間を基調に局部を毛皮で覆い、肘と膝から先が熊のそれに変じている、極めて一般的な獣種である。人馬のような四足や、半魚のような鱗やエラはない。こういう遺伝的におかしい子どもが平然と生まれる国、それがチェルノボグである。布団屋のドリメアを番いとして、スピックというこれまた遺伝的には何も似ていない別種の娘をこさえた彼女は、しかし、結構な頻度で褥にドリメア以外のものと入って行く。チェルノボグにおける番いとは精々が内縁の妻とかその程度の意味すら持たないのである。単に好きあって同居していれば番いである。多婦多妻制のこの大地にあって番いの相手以外と寝ることなど何も問題にならない。つまり、フモトトは極めて一般的なチェルノボグ民なのである。
 そんな彼女はなかなか豊かな職歴の持ち主でもある。初め、彼女は狩人だった。これは人馬の方の母の仕事を継いだものである。しかし、獣種の割にどんくさいのんびり屋の彼女にこの仕事はあまり向いていなかった。何と言っても獲物に追い付けないし先回りする知能もないし罠にかかってくれる天晴れな獣はこの地にいない。一応自給自足は出来たが、彼女の好物たる蜜酒にありつくにはなかなか苦労を要する仕事であった。それをある日、鹿を狩る時に脚に怪我をしたのを契機にやめてしまうと、今度は養蜂を始めた。これは単にフモトトの熊の遺伝子の為に大好きな蜂蜜を量産すれば好物に事欠かなくなるだろうという魂胆を持ってやった。が、手間の割に売れない。チェルノボグでは蜂蜜よりも花蜜で甘さを取る方が一般的なのである。結局この養蜂所は大賢者アドライアに預けてしまって、フモトトはその後も色々な仕事を渡り歩いた末、半魚の方の母が死んだ時に彼女が営んでいた魚屋を継いだ。湖が一つしかなく、漁獲量も制限されるという他の飯屋に比べると面倒が多い仕事であったが、一方で水産資源はこのオアシスにあって結構な贅沢品でもあるので、商売としてはこれが一番安定し、二百四十二歳の今に至るまで続けている。これも熊の遺伝子の影響らしくフモトトは魚を獲るのが上手い。また、母からやり方を教わってこの集落でほとんど作れるもののいない刺身を作れるというのも、彼女の生活を安定させる一要因である。最近ではバグラスの氷屋のお陰で魚と言う足の早いものを扱うにも便利になって来た。今日も彼女は湖で魚を獲っては売り捌き、自由に酒を呑んでは誰かと褥を共にする。

☆ミノルス
 もしもチェルノボグに初めて来た人がミノルスに出会って、彼女が牛乳屋だと聞くと、意外さと納得をないまぜにした妙な表情をするだろう。彼女は牛の遺伝子を持つ獣種である。つまりは、彼女の母乳がそのまま彼女の商品である牛乳なのである。しかし、ミノルスの姿は確かに牛の遺伝子が認められるが、どう見ても彼女が受け継いでいるのは肉牛のそれで、およそ乳牛だとは思われない。それらしい部分は集落一のおっぱいだけである。褐色の肌を持つ彼女はそれと同じような色合いの体毛に肘から先と膝から先が覆われている。足はこの集落の獣種では彼女とメデインしか持っていない蹄がある。獣種の常として、ミノルスも局部は体毛で覆っている。ただ、仕事が仕事なので、胸部は毛皮で覆わず、代わりに服屋で買った毛皮のチューブトップを着ている。頭部には立派な角と牛の耳が生えている。獣種の常として、彼女も体毛自体は自由に操れるので、極光の季節なんかは全身を毛で覆っている。
 ミノルスは元々鳥種の女性から生まれた。チェルノボグではよくあることである。独立してさあ何の仕事をしようかと言う時、彼女はニーズを期待して木こりをしていた。が、何程でもとれる木なんてものを欲しがるような奴はいないので、木細工を覚えようと一時期レキカの所で修行をしていた。ある程度の工芸品を作れるくらいには頑張ったのだが、集落一の偏屈ものであるレキカについて行けなくなってやめてしまった。そうして自給自足の貧乏生活を続けていた所、母親が死ぬというので、その家を相続して母のアドバイスに従って牛乳屋を始めた。ちなみに彼女の母は卵屋であった。一々遺跡に生息している禽獣から採集しないと手に入らない卵を売るのはなかなか需要があった。ミノルスの場合卵は産めないので、今では卵は遺跡からとって来るのが常になっている。しかし、一方でミルクというものは卵以上に貴重なものであった。酪農なんて文化はチェルノボグに存在しない。また、広い意味での『ミルク』というものの味を知っているものすら当時のチェルノボグにはほとんどいなかった。例えば子どもの頃にミルクを与えるなんて軟弱な習慣はこの地になく、赤子に与えられるのは栄養効率を最優先にしたロクに味もない液体食である。為に牛乳と言うものを初めて飲んだ当時の人々の間には電撃が走ったのである。最近では薬学の発展に伴い、特殊な薬を飲むことで誰でも乳を出せるようになって来た。しかし、美食学を嗜むこの集落の住人たちには『売り物』のレベルまで調整されたミノルスの牛乳は非常に愛されている。数十年前には保存もそれなりにきくようになり、更には発酵させた酪や加工したチーズなんかを売り出すようにもなり、ミノルスの商売はなかなかに盛況である。彼女の牛乳はあんまり溜め置くことをせず、欲しいと言うものが店を訪ねるごとに自分の乳を搾って出すという形で供給される。百八十三歳という彼女の年齢に近いものはそれを冷やかし、年上のものはニヤケながら見守り、五十にもならない若者は少し不思議そうに彼女を見る。そういう厭らしい視線に倦んだ彼女はミルクを出す時だけ岩屋の奥に籠るようになった。ある意味当然のことである。こういう塩梅で、ミノルスの牛乳屋は毎日繁盛している。

☆ミガ
 ミガは人虎である。虎の耳が頭にあり、頬の端から縞模様が走っている以外は人間と変わらない、長い茶髪と凛々しい顔立ちの頭部を持つ。手脚に関しては虎のそれである。肩から、腿から、それぞれ獣の毛皮に包まれ、手首足首に至るまで虎そのものの造形を持っている。胴体も人間とさほど変わらないが、裸で過ごす時は局部の粘膜を保護する為に虎の毛を生やす。尻からは長い尻尾が生えており、気分を如実に表す部位となっている。これらの特徴はミガが半人半獣として形を整えた際の基本的な形態であって、これが確実な姿というわけではない。不定形の遺伝子を持つものは別として、基本的に生来の遺伝子に組み込まれた形しか取れないチェルノボグの民の中にあって、人虎である彼女は完全に獣の姿を取ることも出来るし、完全に人の形を取ることも出来る。半人半獣の形態を取るのは彼女の母親がそうしていた習慣が彼女にも伝わったという程度の意味しかない。百三十四年を生きた彼女にとっては人間と獣の配分を自由に操ることなどは造作もないのだ。
 人虎という種族は、例えば『山月記』の神話に現れるようなものではない。それは西洋の人狼と同源の種であり、本来であれば特に東洋に存する種である。彼女の何代か前の人虎がチェルノボグへと至り、以来この地で肉屋を営むようになった。ミガも幼い頃からオアシスでは貴重な食肉を扱う為の術を教えられて育った。それ以外の、例えば文字に代表されるような文明的な教育なんて受けてもいない。実を言うとチェルノボグに住むものの半分以上がそうなのであるが、ミガにとって文字を読む能力というものは純粋種の人間が魔法について考えるあの謎のような感覚を抱かせる摩訶不思議なものであった。暢気に生きているチェルノボグの民たちにとって文字などというものは面倒臭いものでしかなく、ミガも当然そう思っている。そんな一般的なチェルノボグ人の彼女は集落で一番悲劇的な過去の持ち主だと評判だ。四十数年前、彼女には番いがいた。可憐なアルラウネで、仲睦まじく一緒に肉屋を経営していた。子どもも多く生んだ。その数は十六人にも及ぶというのだから、ミガとその伴侶とがどれほど愛しあっていたか、またどれほど性欲の強い夫婦であったかが解ろうというものだ。所が、ある時、彼女の伴侶は哲学病に罹ってしまった。自分はなんで生まれて来たのだろうとか、自分は何をしたくて生きているんだろうとか考えるようになってしまったのだ。生きる理由を失くした時、生命は死ぬ。彼女は鬱々とした心を子どもたちにまで感染させて、ミガを置いて逝ってしまった。次いで、子どもたちも歳を重ねたものから順々に死んで行った。爾来、ミガの顔は表情に乏しくなった。今では先祖伝来の名物であるボロック揚げやゴート揚げを売りながら、儚く笑って住民たちと談笑している。



四. 自警団

☆カルジャッカ
 カルジャッカは自警団の団長である。自警団と言っても、水晶砂漠の向こう側から遥々チェルノボグまでやって来るものなど滅多にないので、彼女はほとんどの場合暇を持て余して、自己鍛錬に精を出している。女性しかいない集落の中で彼女のようなものはあまりおらず、五十年ほど前に酋長が呼びかけて集まった自警団の連中も直近の弟子である何人かを除いて自分の仕事を持っている為、カルジャッカはいつも一人で鉄の警策を素振りしている。自警団が組織される以前からカルジャッカの家は武官の家であった為、酋長フィトリアの城の周りを警護したり、何かもめごとがあった時の『お仕置き』として棒叩き刑を執行したりということをしていた。この仕事は今もさほど変わっていないが、そもそもドラゴンである酋長を獣種の彼女が守る理由は特になく、『お仕置き』にしてもそこまで発展するもめごとなんて滅多にないので、閑職に変わりはない。こういう仕事に理解のある住人は精々が肉屋のミガや宝紬見習いのザントレムくらいのものなので、必然的にマイノリティに属す彼女はその為にかえって仕事に対する責任感が肥大化して行ったのである。もしもいつか何か集落を害するものが現れたらこの鉄の塊を脳天に叩き込んでやると息巻いている姿が、真夜中の酒場ではよく見られる。もっとも、極たまにオアシスに生息している獣が暴れてその退治を頼まれることくらいはある。それと、『お仕置きの棒叩き刑』を除けば、実質的にカルジャッカは無職みたいなものであるのだが、その暇を他の住人は都合よく利用するのである。つまり、肉体鍛錬で極まったカルジャッカに色々な力仕事を主にした雑用を食糧やら何やらと引き換えに依頼するのだ。お人よしのカルジャッカはその一切を快く引き受けてくれるので、集落の人々からは色々な意味で好かれている。彼女の方もそれのお陰で毎晩の酒と肴とレキカの作る宝物に不自由なく手を伸ばせるので、結局Win-Winの関係だ。
 そんな彼女は実の所夜の営みにも重宝されている。美しい姿をしているのである、カルジャッカという獣種の女性は。前身が黒い体毛で覆われた犬の遺伝子を持つ彼女の顔は、細く長く凛々しい犬のそれである。人間らしい所は酷く優しい目が比較的近いくらいで、完全に二足歩行する黒犬である。唯一、両手だけが黒い体毛に覆われ掌に肉球を備えながら、人の遺伝子の痕跡を残している。これほど獣よりの遺伝子を持つものはチェルノボグでは他にいない。ちょっと見た処では彼女が果たして雌雄どちらかなのかが解らない。しかし、もふもふの胸毛に覆われた乳房は確かに大きく、女性のそれだということを不躾な視線で見れば理解出来る。服を着ることはあまりせず、粘膜を保護する為の手段は専ら体毛であるが、一方で装身具は色々と付けている。首輪に腕輪に指輪にアンクレットと実に多岐に渡るそれは宝紬のレキカが作ったものを他の誰かが手に入れたのを、カルジャッカの様々な意味を含む『肉体』労働への対価として差し出されたものである。外貌の中性的なことから言っても、性情の男らしさの上から言っても、また無意味に鍛えられた肉体美の点から言っても、彼女ほど褥を共にして激烈な快楽を与えてくれる存在はチェルノボグではちょっと他にいない。またカルジャッカの方では単純に住民みんなを愛しているので頼まれればすぐに事に及ぶ。為に彼女はプレイガールとして集落に名を馳せている。本人としては英雄的な賛辞をこそ欲しているのだが、それを得る為にはあまりにもチェルノボグは平和に過ぎた。彼女自身も、やり場のない感情をリビドーに変えて、毎夜色取り取りの相手と寝ることは、実はそんなに悪からず思っているのだ。そういう次第で、もう百二十四歳にもなるお盛んな黒いバター犬は夜の英雄として今宵も絶頂への階を登る。

☆モモドメ
 チェルノボグの自警団にモモドメという、非常におっとりした、優しい団員がいる。歳は百四十八で、団長のカルジャッカよりも年上である。容姿はというと、下半身がまるでラミアみたいに、しかし蛇ではない百足のそれに変じている。背中まで百足の殻で覆われた彼女は集落の通例どおりほとんどの場合服を着ない。局部は百足の脚のようなものが体の側面から生えて保護している。胴体の表側、丁度百足の腹に当たる部分は人間と変わらない。ただ、見た目にそうなのであって、体の中では人間と異なる無数の関節が存在している為、例えばモモドメが上半身で柔軟体操なんかしたら、知らない人間はそのあまりの柔軟さに腰を抜かすか、骨折でもしたのかと思うだろう。顔もやはり人間とさほどの違いはない。が、虫種の常として頭から触角が生えている。それを除けば、長い黒髪に左目の下に泣き黒子のある垂れ目、薄さと厚さの絶妙なバランスを保つ口など、美人と呼ばれる要素総てを備えている。百足の遺伝子を持つ彼女の脇から生えたそれを脚と取るか腕と取るかはなかなかに哲学的な問題だ。この問題に結論を出すとすれば、規則正しく並んだ百足のそれの延長線上に生えている人間と同じ形状を持つ白い腕を手がかりに、上半身に生えているのを百足の腕として、下半身、思う存分百足のそれである部分に生えているのを脚と考えるのが適当だろう。
 こういう姿をしているモモドメは大賢者アドライアと墓守の賢者ラブラの娘である。モモドメが生まれる前、一つの諍いが存在した。丁度その年、墓守の賢者ラブラは一世紀記を迎えた所であった。それを祝う宴の中で大賢者アドライアは実に軽薄に『欲しいものがあれば差し上げるわ』と言ったのだ。ラブラは一切躊躇することなく『子ども』と答えた。この時点でラブラは墓守の賢者として四賢者の末席に名を連ねていたので、アドライアとしてもその立場から来る頼みは無碍には扱えなかった。一方に、賢者たちの仕事の中で唯一世襲制である墓守の後継者を僅か百歳で作るなど言語道断であったので、アドライアは半ば仕方なしにラブラと交わり、互いの遺伝子のかなり深い部分に残滓として残っていた百足のそれをモモドメに与え、そうして彼女は生まれた。生まれはしたがラブラに子守なんか出来るわけないので、彼女は幼い頃に白亞の森で過ごしていた。一応ラブラとの親子仲は非常に良好で、暇があれば会いに行くくらいだが、ラブラの方はこの娘を近親相姦の味を味わう為の相手として見ているのだからまったくとんでもない話である。
 こういうめんどくさい事情で生まれたモモドメは五十年ほど前に自警団が出来るまではアドライアの膨大な仕事を手伝っていたし、場合によってはラブラの方の手伝いや、宝紬の賢者レキカの雑用に湖守の賢者スクラクの仕事の一部なども請け負っていた。現在の自警団が半ば便利屋として自警とはあんまり関係のない様々な肉体労働をこなしているのは最年長のモモドメがそういう経歴を持っていることの残滓である。昔の、また今の仕事の上でもモモドメはオアシスの内外の地理に非常に詳しい為、例えばどこそこの遺跡になにそれがある、という仕事を請け負うのは大体彼女かリサリンである。そうして、ラブラの色情狂の遺伝子を奇跡的に受け継がなかったモモドメは、つつましくも安穏とした毎日をゆったり過ごしている。

☆リサリン
 リサリンという女性が蠍の遺伝子を持っていることは一目で分かる。一方で、彼女が孵卵器の中にいた頃に、何かしら遺伝情報に異常が起きたのではないかという疑問も、その姿から同時に浮かんでくる。多くの場合、人間とそれ以外の遺伝子をかけ合わせることで生まれるチェルノボグの住人は全身に、或いは体の各所に、元になった人間以外の遺伝子の痕跡が現れる。リサリンの場合、それは完全に蠍のそれである下半身に集約される。その集約されるというのが妙なのである。彼女の上半身、つまり蠍の下半身から生える人間と変わらない部分、そこに蠍らしい要素は何一つない。例えば同じ節足動物の遺伝子を持ち、事実姉妹関係にもあるラクネアと見比べると、ラクネアが顔に八つの目を持っているのに彼女の顔はそんな異形の形を一切持っていない。強いて言えば彼女の母たるアドライアの影響らしい薄緑色の髪の毛がそうだが、実はこれくらいの特徴を持った純粋な人間種というのはこの時代の世界には普通にいる。また、同じく虫種で、彼女の姪にあたるガザニカと比べてみても、ガザニカの腕の肘から先が完全に蟹のそれであるのに対して、リサリンの腕は人間そのものである。つまり、彼女は人間大の大きさの蠍の、顔があるべき位置から、人間の上半身が生えているのである。ここまで遺伝子がきっぱりと分かれているものはチェルノボグでは珍しい。
 ラクネアより十年ほど年上で、もうじき一世紀記を迎える彼女は、四十代くらいまでは狩りをして生計を立てていた。ラクネアの姉妹である以上は一応服屋を継ぐ選択肢もあったし、事実彼女はある程度被服の知識を持っているのだが、しかし、十歳を越えた頃にラクネアが生まれると彼女の片親のアルケニーは『やはり服屋稼業はアルケニーに継がせたい』と言うので、リサリンは妹の為に後継者の地位を譲ったのである。代わりに片親は幾つもの凝りに凝った衣装の数々をくれたが、リサリンの目の前にある課題は詰まる所『この先どうやって生きて行こう』ということであった。この集落の誰もがそうするように、悩み事に悩んでいると自覚した瞬間彼女はもう一人の母であり大賢者であるアドライアの所に相談に行った。するとアドライアは自分の家である白亞の森の中にリサリンの家を用意して、彼女の仕事にいる様々なものをオアシスに散在する遺跡から取って来る狩人の仕事を任せたのである。獣を初めとして、植物や鉱物まで、大賢者たちの仕事の為になるものを狩りとって来るという、かなり広い意味での狩人である。大賢者直近の部下である為、生活にはまず不自由することがなかった。とは言え、この仕事は突き詰めて言えば『親の家業の手伝い』なので、およそ継ぐことなど出来なさそうな仕事でもあり、リサリンとしては貧しくても独立して稼ぎたいという願望があった。しかし、チェルノボグという超簡易化された社会の中で新しい仕事を始める余地というものは、この時に既になかった。それで四十代を終えようかという頃に、酋長フィトリアがチェルノボグの住人全員に自警団の発足知らせと団員募集の知らせを発布したのである。自警団など発足しようがこの平和すぎる集落では大した仕事もないだろうということを聡明なリサリンは感づいていたが、当時から酋長の側近として働いていたカルジャッカに誘われ、母アドライアからも勧められて、取り敢えず入ってみることにした。入ってみても自警団という組織は万年暇を持て余していたが、それでも『独立して仕事をしているのだ』というささやかな満足を得るのには十全であった。こういう経緯で独立した仕事にありついたリサリンは、今では貧しい対価しか貰えない貧乏な自警団暮らしを、そこそこに楽しみながら日々を生きている。

☆キスティ
 チェルノボグという特殊な死生観を持つ集落の場合、年齢というものはなかなか説明しづらい。多くの場合二十歳を過ぎるくらいで仕事を始めるのは現代日本という異世界と同様であるが、それから先は実に数百年もその仕事をしながら生きて行くことがよくある大地なのである。そして、悲しいことに、五十や百を記念日にして年齢を重ねて行くこの集落で『幼子』と呼べる年齢帯のものはスクラクの娘ラムしかいない。その少し上、二十から五十までの『子ども』のラインにキスティはいる。
 この三十二歳の自警団員は自分と同じような遺伝子を持つ母親に育てられた。変わっているのは、彼女の母は湖の南の森にある何かの祠の近くに居を構えていたことだ。何かを調べていて、そのお目当てのものが集落の南端にある火山遺跡にあると知るとすぐさま準備を整えて遺跡に踏み込んだ。以来、一週間も帰って来なかった。キスティの陳情で大賢者アドライアは酋長に呼びかけ、酋長フィトリアを初めとした集落でも屈指の腕自慢たちが火山遺跡を探索し、無残に襤褸布のようになったキスティの母を見つけた。その葬儀以来、キスティは暫くニヒル病を患っていたが、薬屋のリネオクンがくれた豊饒薬を常用しているうちに心に区切りがついた。そうして二十歳になる歳に、彼女は自警団に志願した。暇人の団長カルジャッカは諸手を上げて歓迎してくれた。そして生まれ育った祠の近くの家を大賢者に明け渡して相当な貯えを得た。その後は毎日毎日他の自警団員と交代でオアシスの外、水晶砂漠の見回りに精を出している。数年前にはガザニカという後輩も出来て、彼女の仕事もようやく安定して来た、という所か。
 外見はというと、彼女のシルエットを見た時、真っ先に目につくのは両手首の下から生えている蟷螂の鎌だ。普段折りたたんでいるそれは手首から肩まで及ぶ長さを持つ。その肩はまるで鎧のようなものに覆われている。伸びている腕はインナースーツのようなピッタリした触感をしていて、鎌のある手首に至ってまた鎧に覆われる。胴体でもこの構造は同様で、背中から伸びる鎧が腹の左右三分の一ずつと、乳房の尖端くらいまでを隠している。そして胴体で鎧のない所はピッタリ密着しているような質感のそれに包まれている。鎧は翡翠を思わせる明るい緑で、インナーは黒に近い深緑だ。しかし、これらの二つの天然の衣服は彼女の骨格から生える鎧のような外骨格と、地肌の色合いに過ぎない。彼女は蟷螂の遺伝子を持っている。証拠は随所に認められ、カチューシャのような頭部の黄色い部分は目だし、間から触角が生えている。下半身も胴体と同様の造形になっているが、局部を保護している鎧状の部分は彼女の二対目の、あまり使われない退化した腕である。そして尻からは蟷螂の腹に当たる物体が伸びている。顔はというと、それだけ見れば人間とは何一つ違わない。ざんばらなおかっぱ髪の下に仏頂面が並んでいる。もっとも本人はこの常に顔の筋肉に浮かぶ固い表情を随分気にしているのだが。そんな彼女がある日、薬を買いにリネオクンを訪れた時に墓守の賢者ラブラにたまたま会って、なすがままに集落にある褥に連れ込まれて凌辱された時はまったくもって腰を抜かしたものである。その当時のキスティの年齢は二十一であったが、享楽放蕩のエキスパートたるラブラのもたらす快楽に溺れ死にしそうになった彼女は、平均的なチェルノボグの住民として、今でもあちこちの人と褥を共にするのを楽しみにしている。

☆ガザニカ
 ガザニカという二十六歳くらいの(チェルノボグでは)幼い自警団員がいる。見た目はもっと幼い。顔から胴体までが人間種のそれに近い彼女の外見年齢はどう見ても人間で言うティーンエイジャーに達するとは思われず、二十を過ぎれば大抵熟れるチェルノボグの住人の中ではなかなか未熟な肉体の持ち主であった。しかし、ぷっくりとした人と大差のない肉体に潜む筋肉はとんでもなく密度が高く、力仕事は見た目に反して得意である。スクラクの娘の一人であるのだが、姉妹の中で彼女はあんまりスクラクに似ていない。これはスクラクがラクネアと交わった時に虫種の遺伝子を加工して、更に自身の中に備わっている水棲種の中でも取り分け甲殻種の遺伝子を選んで生み出した為である。人間に近い部分はラクネアの方の遺伝子であり、蟹の遺伝子はスクラクが持って来た。水棲動物種という意味では中の姉のリネオクンと同種なのだが、向こうがクリオネという水晶砂漠でなじみの薄い種なのに対して蟹はチェルノボグの森の中に固有種が生息しているのでガザニカを見た住人たちはちゃんと『ああ、こいつは森林蟹の遺伝子だな』と理解出来る。幼い顔の上には人間同様の髪の毛がある。二つ結びにしているのは下の姉のバグラスの影響で、飛び出している尖端に球体のついた触角のようなものは蟹の目である。両腕は可哀相なことに肘から先が完全に蟹のそれで、細かい作業をするには途轍もないハンデが存在している。この蟹鋏はとんでもなく頑強でかつ重く、殴ろうが挟もうが突こうが確実に相手を傷つける類のものだ。そして下半身はスクラクとラクネアの共通点でもある異形の複数脚であり、これもやはり彼女の場合は蟹のそれである。ラクネアよりは一対多く、スクラクよりは一対少ない四対八本の甲殻脚は腕と同様の特性を持ち、内蔵されるあり得ない密度の筋肉によって並の獣種よりも速い移動が出来る。これらの肉体における蟹的特徴はあんまり店屋を経営するのには向いておらず、ラクネアの服屋を継ぐことや、スクラクのような湖守、またはバグラスのようなその類縁職に就くことはもの心ついた頃に早々に諦めてしまった。日常生活に支障はない。ものを持つのに一々工夫のいる両手であるが、食事や力仕事をする上では苦にならない。蟹の鋏では食器なんて持てないのだが、そもそもチェルノボグの住人が使う食器など飲み物を飲む為のクリスタル製のリットルグラスが個人に配られている程度で、他は精々が酒場で出される皿か編み籠くらいのもので、それすら数が足りないと幾らでも採れる大きな葉っぱの上に料理を置いて出される。スプーンだのフォークだのナイフだのを使う文化はこの地にない。そんな面倒なものを使う奴など集落一の変わり者であるクスフィスくらいのものだ。だからガザニカは遠慮なく鋏でそのまま飯を食う。
 ……と、まあこんな塩梅で日常を過ごしていると退屈病で死んでしまうのではないかという気持ちになったので、思春期のガザニカは無邪気に死へと至る病を怖れて取り敢えずは肉体労働が主軸である自警団に志願したのである。団長カルジャッカは基本的に万年暇で、あんまり周りから本来の仕事に対して関心を持たれない悲しい宿命を持つ自警団に人が増えることを大いに歓迎してくれた。それ故ガザニカは純粋な敬意や憧れ以上の感情をこの天晴れな犬頭の上司に抱いているのだが、チェルノボグきっての淫乱スクラクの娘にしては彼女は奥手に過ぎて、求愛行為を上手く出来ずに悶々としながら毎晩毎晩あぶくを噴出しながらハードオナニーに耽っている。


五. その他

☆コイカ
 水晶砂漠の僻地チェルノボグには男性が存在しない。何百年か一度には他所から旅人の男が訪れることもあるが、定住した例はマロカの親しかいない。そういう大地で生殖に関係する褥守という仕事をしているのがコイカである。蛾の遺伝子を持つ彼女の背中には立派な羽が生え、手足と局部とに体毛が生えている。頭からはこれも体毛に包まれた触角と、虫種独特の目が生える。体毛と同じく白い長い髪の毛には羽と同じく目玉に見える模様が左右にある。二百八十三歳に至るコイカの肉体は全体的に肉感に溢れている。
 こういう、見た目からして煽情的な女性が褥守をしているのは如何にも意味ありげに思えるが、大した意味はない。褥守というのは要するにラブホテルと風俗店を足し合わせたような店の店主であり、必要な能力があるとすればそれは彼女の住処でもあるキノコホテルの中で行われる蜜事に対する守秘能力だけだ。世襲制ではないこの仕事は前任者が死ぬと賢者たちの会議によってその時集落に住んでいるものの中から選ばれる。コイカは褥守になる以前は薬屋であった。今ではその仕事はリネオクンがやっている。
 さて、チェルノボグにおける性行為は快楽を求めて行われることがほとんどである。その為には雄蕊がいるわけだが、それを管理するのも褥守の職掌である。それは個人で持つことは許可されておらず、褥守の許可を得て愛宿キノコホテルで行わなければいけないというルールがある。快楽に貪欲なチェルノボグの住民たちである。充足の為の道具の豊富さと来たらとんでもなく多い。
 そして、性行為の本来の目的である子作りはチェルノボグという地では軽視される傾向がある。適当な年齢になったら子どもを作るが、その子どもが一人前になったら親は大抵死ぬ。子どもを作ると言うことは死への階段を登ることである。だから集落の住民はほとんど子どもを持たない。必要になれば作ればいいというくらいにしか考えていない。何せ全員が女性で、生活にさほどの余裕はなく、月経なんて怖ろしいものなど超越してしまった連中のこと、子作りというものは自分が死ぬ為の準備である場合がほとんどである。賢者の位にあるものはその余裕から、集落の発展を目指し、或いは自らの都合を叶える手段として、子どもを生むことがあるが、一般の住民は晩年まで子どもを作らないことがほとんどである。
 そして、この地の子どもというのは種を問わず卵から生まれる。直接胎生で生まれることはなく、卵そのものは褥の地下の旧時代の遺物である培養槽から造られ、賢者たちの指導の元で遺伝子を好きにいじくり、孵卵器に入れることで子どもが生まれる。陣痛を伴う出産はない。
 こういう場所の管理を任されている関係上、コイカは非常に裕福である。何せ彼女の許可なしにはこの地のほとんどのものが好きな性行為を快適に出来ない。ついでに子どもを作るのにも事欠く。もっとも、コイカの場合花より団子な女性なので、長くチェルノボグで生活しているクジャなどに言わせると『以前の褥守より大分良心的』であるらしい。そんなコイカもご多分にもれず好色であるが、そろそろ自分の子どもというものを欲しがる年齢であるらしく、番いは誰がいいだろう……なんてことを考えながら蜜事の管理をしている。

☆ネムコ
 チェルノボグの中央湖のすぐ北側には酋長フィトリアの居城たる黄金の階段ピラミッドがある。その更に北側、程良く涼しい区域に、集落のみんなが共同で使っている倉庫がある。この倉庫は大きな洞窟の中にあり、各人に応じて細かい倉庫が割り当てられている。その倉庫番をしているのがネムコである。仕事と言っても暢気な集落の愉快な連中相手のこと、誰もが顔パスで何の手続きもなしに自分の倉庫に入って行く。ネムコはそれをぼんやりした表情で見ている。母にして大賢者たるアドライアからは『知らないものが倉庫に入ることは止めなければいけない』と教えられて、ネムコは百五十年ほど倉庫番を続けている。その長い歳月の中で知らないものが倉庫に入ろうとしたことは一度としてなかった。一応、生まれてから独立して倉庫を新しく持つものは他の誰か(多くは直接の親)の紹介でネムコに面通しされる。ネムコはその一々をしっかり把握している。そして、把握していないものは基本的にチェルノボグの中にいないので、実質倉庫は誰でも使える物品保存の場である。遺跡を任されるものが増えた昨今では倉庫をあまり使わないものも出て来た。変わり者の古道具屋クスフィスなんかがいい例だろう。彼女は欲しいものは自分の博物館遺跡に安置して、いらないガラクタばっかりネムコが番をしている倉庫に運び込むのだ。一応、ネムコは倉庫番なりの親切として荷物を代わりに運んでやったり、たまには倉庫内の掃除なんかもする。そんな日常をぼんやり過ごしている彼女はまったくもって何を考えているのか分からない。否、分からないではない。誰の目から見ても、ネムコが普段何も考えていないことは明らかであった。有閑な仕事を大賢者に任された彼女は一日のほとんどをぼーっとして過ごしている。忙しいのは精々お祭りの時か、雨の時期か、大掃除の時期くらいであるのだが、怖ろしくマイペースなこの倉庫番はそんな忙しさにはついて行けないくらいにトロいので、あんまり頼りにされていない。
 彼女の外貌は非常に純粋種の人間に近い地精である。ちょっと見た所では褐色でパッツンおかっぱのぼんやりした、豊満な体を持つ美女である。しかし、注意して見てみると明らかに人間ではあり得ない罅割れや、水分を含んで湿気った土特有の質感なんかが把握されるだろう。ネムコは服なんか着ない。また、彼女には粘膜というものが根本的にないので、局部を隠すこともしない。『落ち着くから』という理由で両手両脚に岩の塊を顕在させることはあるが、肝心な部分は隠れていない。それでもネムコの股間に局部はなく、彼女の胸には乳首もない。服屋のラクネアはなんとかしてこのぼんやりした、しかし、集落では珍しい褐色の肌とエキゾチックに豊満な体を持つ彼女を着飾らせたいと考えている。本人はそんなことは微塵も考えていない。彼女の場合、倉庫である洞窟の中に引き籠っているだけで大抵のものは満ち足りるのだ。地精という種族は大地の養分を一切の無駄なく消化吸収出来る。また、精霊種の常として性欲が薄い。眠る場所にしたって彼女みたいに体が土と岩で出来ているものには大地がそのままベッドになるのだ。チェルノボグにおいて文明の産物は娯楽の対象でしかなく、文明なんかいらないと清しくも全裸で地面にべったり座るネムコの姿からは確信させられる。もっとも、そんな彼女も文明の産物に触れないではない。経口摂取の食事はネムコにとっては栄養上大して要るものでもないのだが、肉屋のミガの作る揚げものは週に一度くらいは洞窟の岩扉を閉め切って買いに行くし、昔この集落で料理人をしていたものから貰った自炊用品に酋長フィトリアが授けてくれる火を作ってシチューを作るのが随分長いことマイブームになっている。旬の食材があればそれも料理して食べる。極光の季節に空を泳ぐ氷魚、花々の季節に取れる甘露酒、旱魃の季節に取れる日照蠍、殊にどの季節でも採れる色取り取りのキノコのの中から旬のものを使って作るキノコシチューはちょっと集落で評判になるくらいに絶品だ。それから、オアシスの各地で取れるものなんかも頼んで持って来て貰ったりしている。特に宝紬のレキカがいる東の竹林で作られるゼダンメンマやクジャの酒場の名物である火炎酒なんかがお好みだ。何にも考えてはいないが、存外グルメである。そんなささやかで静かな営みをしながら、今日も彼女は洞窟倉庫の中で膝を抱えてぼんやりしていることだろう。

☆ルーヴァン
 チェルノボグの多くの職業がそうであるように、ルーヴァンが務める郵便屋も代々風精の一族が担当している。郵便という言葉はあんまり適当ではなく、実際の所は何か事件があったりした時の広報、誰か(大抵はクスフィスかリネオクン)が出した広告を集落中に知らせ回る仕事である。物品の持ち運びは貧弱な風精には向いておらず、また手紙を書く文化なんてこの地にはないので、ここで言う郵便屋とは情報屋くらいの意味である。加えて言えばそういう仕事が必要になる時などこの集落ではそうそうない。自然現象は余程の天変地異でない限り知らせるまでもなく住民たちは把握して対策するし、事件があれば居住区の住民はすぐに知る(知らないのなんてマロカくらいだ)ので、普段の彼女は専ら広告や伝言屋として生活している。如何にも仕事に事欠きそうな仕事は実質賢者たちが各々の家に居ながら会話しあうのに使われる。特に彼女は大賢者アドライアの居城に間借りして暮らしており、彼女の言葉を他の賢者に伝えるのが主要な仕事である。それも大したものではないが。しかし、彼女の伝達技術と来たら素晴らしく、吹き荒ぶ風に自身の肉体を変容させて瞬く間に目当ての相手の目前まで行って、言葉を伝え、返事を聞いた次の瞬間にはもう発信者の所に戻っているのである。この迅速丁寧はルーヴァンの家系の売り文句でもある。稼ぎは、一種の公務員に近い為、最低限の生活自体は保障されているのだが、それ以上のものはあんまり手に入らない。しかし、ルーヴァンのような風精は文字通り空気があれば生きていける種族なので大して困りはしない。この燃費のよさと生まれ持った特性の故に風精の一族はこういう仕事をしているのである。慈悲深い大賢者アドライアはたまにボーナスを出すような感じでお小遣いやプレゼントをくれる。気まぐれなルーヴァンはそれらが気に入ると自分のものにして、そうでなければ別のものと引き換えにする。食事が極めて淡泊に行われる種族なので、多くの場合彼女が欲しがるのはラクネアの作った服か、レキカの造る宝物である。ルーヴァンはようやく一人前になって来たくらいの年齢である。この年齢としては相当に豪華な衣服と宝物を持っている。大賢者アドライアと先代の風精にして『風神』と渾名され、現在は水晶砂漠の向こう側へ旅立ったヴァルルーンの娘であるルーヴァンはチェルノボグという集落一のお嬢様なのである。
 ルーヴァンの容姿は、精霊種の常として不定形である。集落で生活する都合上普段は人の形を取っている。見た目の幼さで言えばチェルノボグ一である。実年齢七十七の彼女を人間の年齢に合わせるとどう見ても十を越すとは思われない。緑色の全身は伝統的に木精アドライアに精を授けられるこの地の風精の遺伝的特色をよく表している。単身痩躯で、身長は精々が百二十センチ程度だろう。重さに至っては種族の特性故に十キロもない。もっとも、もう一人の母ヴァルルーンくらいに歳を取れば貧相な風精も豊かな風神へと変わる。ヴァルルーンの年齢が六百六十六歳であるのを考えると先は途轍もなく長いが。色以外は人間の少女のそれである顔は活発そうな表情をいつも浮かべている。髪は精霊種の特徴として自由自在に操れるのだが、ルーヴァンは多くの場合、後ろ髪をサイドに結って、垂れた髪が竜巻を思わせる渦巻きになるようにしている。お洒落好きな彼女はよくラクネアの所で服を買って着飾っている為、この集落の住民の中ではあまり裸体を見られない部類である。集落の誰からも愛されているルーヴァンは『気が向いたら帰る』と気まぐれに言い残して去って行った母ヴァルルーンがお土産を持って帰って来るのを心待ちにしながら、今日も集落中を元気に駆け回っている。

☆バグラス
 二十余年前にチェルノボグで一つの技術革命が起こった。それは『冷凍保存の発見』であった。元来水晶砂漠の総てのオアシスにおいて水の保存という問題は死活の問題として存在していた。オアシスである以上湖はあるが、そこから一々水を汲み上げ、各々の家のどこかに保管する、それは非常に面倒で、衛生的にも実際的にも皆何とかしたいと考えている問題であった。例えば水を桶に入れて運ぶ時、足場の悪いこのオアシスでそれを零すことなく自宅まで運ぶことは不可能と言ってよい。それを解決したのが二人の賢者の血を引く若い氷精バグラスであった。彼女は自身の特質を以って水を氷に変え、それを湖から持ち帰らせることで運搬の不便と保存の不便とを解消したのであった。清潔で、ある程度の密閉性のある箱は幸いに遺跡から確保出来た。そこに氷を入れておけば水は定期的に採取出来るし、すぐに欲しければ酋長が配る炎を使えばいい。原始的な集落の中の画期的発見は当時の住民たちから持て囃され、当時十代であったバグラスは一躍時の人となった。『氷』というそれまでのチェルノボグでは極光の季節の限られた時期か、または六花遺跡という限られた場所でしか得られない、衛生的な保証もなかったものを安定して供給する彼女は酋長フィトリアにも認められ、勲章を貰うほどであった。今ではこの水の保存法が一般的になっているが、それはバグラスの地位が下がったことを意味しない。水晶砂漠で本来取れない氷をチェルノボグで唯一安定して供給出来る氷屋の彼女は食料品を扱う肉屋のミガや酒場のクジャは勿論として、普通の住民たちも食物の保存、特にすぐにものが干からびる旱魃の季節や腐敗が置き易い蒸気の季節には重宝している。古道具屋クスフィスが何とかかんとか頑張っている『発電技術』が現実化するまで彼女は集落で一定の地位を占めるだろうし、それが完成したらしたでバグラスは別の仕事を行うに十全の能力を持っている為、毎日は何も問題なく、未来に向かう障害物さえ見えることなく進んでいるように見える。実際はそうでもないのだが。
 さて、バグラスが二人の賢者の娘だということは既に述べた通りだが、この出自は少々特殊なものだ。彼女は元々、チェルノボグでは一切自生しない極光花の種から生まれた。花の種である以上それは元々木精アドライアのものだった。しかし、花でありながら氷点下百度の冷気を発する極光花はアドライア一人で育てるには些か冷た過ぎたのである。大賢者とて限界はある。そこで偉大なる長老は水精であるもう一人の賢者、即ち湖守のスクラクと交わることでこの極光の季節にたまたま飛来した一粒種を精霊種として生み出そうと試みた。北海の住人の遺伝子を持つスクラクを母体に、アドライアが精を注ぎ込むことでバグラスは生まれた。二人の賢者はこの娘を湖守の類縁の仕事に就かせようとあらかじめ決めていた為、大地の要素の多いアドライアよりは水の要素の多いスクラクに近い遺伝子を持ってバグラスは生まれた。こういう特殊な出自と、彼女が昔のスクラクのように透明な水色をした、しかし液体ではなく氷を基本としたグラスのような体を持つことから、『バグ』の『グラス』で『バグラス』の名前を貰った。透き通る氷の肉体は肩に氷塊を備え脚の尖端に行くにつれ大きな氷柱のように尖り出し、ある程度液体化させた胴体や腕はぷにぷにした触感を持って人間種の通りの形を取り、服飾に無関心な彼女は局部を自前の氷で覆うだけの裸体で日々を過ごしている。顔は美女の類であるが、アドライアのような愛嬌のある美人ではなく、スクラクのようなどこか酷薄な印象を抱かせる類の美人である。髪の毛は氷と霜とで出来ている。お下げのように頭部の両脇から長い氷柱が下がっているのは彼女なりのお洒落である。透徹した顔には一切感情が存在しないが、これもスクラクに似て自尊心の高い性格をしている。こういう肉体的特徴と生まれ持った性質、そして与えられた仕事の関係上彼女は非常に湖守の母に懐いている。いつかは彼女のように賢者の一人に数えられることを夢見て幼い氷精は勤勉な毎日を湖の畔に過ごしている。

☆はぐれモヨコ
 チェルノボグという土地において『苗字』という文化は完全に忘却の彼方に置き去りにされてしまっている。一応酋長フィトリアや巫女には姓があり、その彼女らの推測の上では大賢者アドライアにも昔はあったのを、アドライア自身が集落の姓と丸ごと一緒に失くしてしまったのではないかということだ。しかし、姓なんてなくても誰も困らないので、疑問に思うものなど知識人層を除けば全然いない。もしも不思議に思うことがあるとするのであれば、それはこのはぐれモヨコを前にした時に他ならない。はぐれというのはファミリーネームで、モヨコというのがファーストネームであるこの汚穢屋を務める水銀のスライム、ないしゴーレムはこの地の庶民としては非常に珍しいことに、苗字を持っているのである。なので住民たちはみんなこの仕事の時しか喋らない物静かな女性を前にすると混乱して『はぐれ』と呼べばいいのか『モヨコ』と呼べばいいのか迷ってしまうのだ。これは、例えば墓守のラミア一族のように、チェルノボグという社会の中で汚れ仕事をしているものに特有の世襲制が関わっていると考えるものもある。つまり、墓守の賢者ラブラで言えば『ラブラ・ラミア』となるような具合で汚穢屋のはぐれ一族も一種の家号としてその苗字を継いでいるのではないかということだが、何せモヨコ自身もその謂われを知らないので正確な所は分からない。
 さて、汚穢屋と言ったが、それはつまりトイレ業者と糞尿処理業者を足し合わせたような仕事である。この仕事は大賢者アドライアと何代も前の湖守、そして酋長とで決められたものである。チェルノボグという大地の衛生を考える時、糞尿の処理というものが死活の問題として立ち現れることを大賢者はようく知っていた。そして、どうすればそれを上手く解決出来るかということも、この賢者にはちゃんと分かっていたのである。はぐれ一族が水銀のゴーレム、ないしスライムであるという所にその答えがある。この世界におけるゴーレムやスライムというのは人工の精霊種であり、例えば砂精の宝紬見習いのザントレムや、地精である倉庫番ネムコ、氷精である氷屋バグラス、まだ赤子である湖守の賢者スクラクの娘である水精ラム、こういうものたちもゴーレムやスライムの一種に含まれる。ゴーレムとスライムの違いというのは、ゴーレムが大地の元素に、スライムが水の元素に基づいて生まれるということである。為に、ゴーレムの方が形としてはまとまっており、スライムの方が自在に姿を変えられる。とはいえこれにもかなり例外は多く、砂精ザントレムは自分の体を砂に出来るし、氷精バグラスは水の元素に基づいて生まれていながら常のスライムほど体を自由に変えられない。こういうルールで見た時にはぐれ一族というのはどっちつかずのかなり変な種族であるのが分かる。つまり、水銀というのは水の元素とも土の元素ともつかないため、ゴーレムともスライムとも言い切れないのである。
 そんなはぐれ一族の当代であるモヨコがどういう風に仕事をしているかと言うと、細胞分裂のように無限に増える自分の肉体の一部を『用足し匣』に入れて各家庭に配るのである。これは要するにおまるである。中に入った排泄物は特殊な、毒性のない水銀に包まれてしまって一切悪臭を放たず、箱の中には常に衛生が保たれたままになるというとても便利なトイレである。そして、日に一度、夕方くらいにモヨコはそれを回収して箱を取り換えて行く。そして持ち帰った『用』は自分の肉体に取り込んでしまってそのままそれがはぐれモヨコの栄養となるのである。そういう食性になるように調整されて、はぐれ一族という中途半端な種族は大賢者アドライアによって造られたのである。勿論、『用』を食べるという意味で彼女はかなり特異な存在であり、また水銀という特性故湖を初めとした幾つかの衛生的に大事な場所には出入りを禁止されており、住民との交流はあまりない。本人はそれでいいと思っている。というか、そういうものだと思っている。不定形の水銀を自在に動かして様々な形をとるゴーレムスライムたる彼女は今年で二百二十七歳に至り、今日も集落の衛生の為に必要不可欠な重大事を粛々と行っている。

☆スピック
 チェルノボグという土地の特殊な生殖の結果として、妙な親子が生まれることがままある。スピックはその代表例である。彼女の遺伝子はどう見ても鳥のそれなのだが、両親のドリメアとフモトトはそれぞれバロメッツと熊である。つまり、幻想種と獣種の両親から鳥種のスピックが生まれたと言うことになる。両腕が玉虫色の羽を揃えた大きな翼となり、翼の中ほどの関節の部分に三本の、猛禽類の指が生えている。髪の色は金を基調に、前髪に一房黒い部分が混じっている。脚は膝から先が完全に鳥のそれである。もしも彼女が狩りを覚えればその大きく鋭い爪によって中型動物くらいは簡単に獲れるだろう。こういう特徴の一切がドリメアにもフモトトにもまったく似ていない。顔つきだけを見ても親二人がおっとりした温厚そうな印象を与える造作をしているのに、スピックの顔は、まだ若いというのを差し引いても両親よりも鋭角的でどこかつんけんとした印象を与える類のものだ。これだけ似ていない上に種まで異なる子どもというものを作ることもチェルノボグという土地に眠る大昔の遺物を使えば可能になるのである。そこに深い意味など存在しない。精々フモトトとドリメアが共通して鳥が好きだから娘には鳥の遺伝子を与えようと思ったという、その程度のことである。
 とは言え、そういう適当な具合で生まれたことはスピックの性格に影響を与えないわけではなかった。鳥種というのは今現在のチェルノボグの中では彼女しかいないのである。自分と似てる奴が集落のどこにもいないというのは、少しの寂しさを彼女に胚胎させた。それが肥大化した結果、彼女は大した貯えもロクな仕事さえなく一人暮らしを初めてみることにしたのである。スピックはもう二十七歳になるが、どうにも自分の仕事を決めかねていた。フモトトは一家の支えとしてスクラクの許可を得て魚屋を営んでいるし、ドリメアはそれを補佐しながら自前の羊毛で布団を作ってはたまに売る。実はスピックの肉体的特徴はこの二つの仕事を継ぐのに十全なものであるのだが、本人は両親への反抗心のようなものが上回っていて、安定した生活に入るかどうかについて随分葛藤している。チェルノボグという集落は別段働かなくてもさほど食糧に不自由することはない。とは言え、美食や服飾、宝物なんかを欲せば必然的に何かの仕事をしていないと高級なものにはありつけない。スピックもそれは分かっているので、両親の店を継ぐことは取り敢えず保留にしておいて、今はクジャの酒場の手伝いをしている。毎晩居住区のみんなが酒と食事を求めて入って来る酒場はクジャ一人で回すのが大変なので、店員としてスピックを雇うことにクジャはそんなに躊躇わなかった。一応クジャの方でも『踏ん切りがついたらご両親の仕事を手伝うか、新しく仕事を始めるかなさいね』と言って聞かせているが、効果は薄い。この手の仕事に事欠く住民は大抵自警団に入るが、スピックは毎日見回りと鍛錬に明け暮れている連中の中に入って行けるほど自分は図太くないと思っているらしい。夕方に酒場が開くまでの間は自慢の翼で集落の中を気ままに飛びまわりながら取引材料の食物を集め、夜はクジャの酒場でウェイターをする、という生活が彼女がこのチェルノボグという社会と自分との関係性に見出した妥協点なのである。そうして、たまにはクジャから高級酒を貰ったりしながら、フリーターらしい寂れた生活を続けている。


六. 見習い

☆ザントレム
 チェルノボグという大地では年齢の区切りになる歳が幾つか存在する。まず元服が二十歳に行われる。次に五十歳になると半世紀記というのが行われる。そして百歳から先はそれぞれ何世紀記というのがある。仕事を始めるのは二十歳くらいだし、酒に至っては別に十代でもそれ以前でも呑めるこの土地で、五十歳という年齢は『一人前になった証の歳』として祝われる。百を越えるとそれはそれで色々な意味合いが、丁度生きて来た年月に幾つもの出来事が折り重なっているように、籠められて祝われる。しかし、ザントレムという宝紬見習いは現在五十四歳、四年前に半世紀記を迎えていながら、未だに見習いという位置から抜け出せずにいる。これが何故かというに、宝紬という職人職は集落の中で最も宝紬に適した一人しかいないというのが原則であるから、というのが一つにある。金属細工と陶芸に達者なザントレムは、しかし、師である宝紬の賢者レキカに比べると圧倒的に未熟に過ぎるのである。更に言えば、宝紬という仕事は賢者の地位と不可分であり、例えばザントレムが見習いから脱すということは、現賢者たるレキカが死ぬか引退するかしない限りあり得ないことなのである。レキカの方は一応ザントレムが立派な宝紬の賢者になれるように日々色々なことを教えているのだが、明らかに拒食症の末期症状を呈しているとしか思われない竹林の賢者は千数百年も生きているのに死にそうな気配なんか微塵もないし、本人曰く病気なんてしたこともないので、ザントレムがその地位につくというのはそれこそ数百年か千年くらい先の気の長い話である。
 毎日毎日飽きもせず修行と雑用に追われているザントレムはなかなかに人間に近い姿をしている。宝紬の賢者の影響でこの集落では珍しく服をいつも着ている彼女が人間と違う所というのはかなり探しづらい。しかし、ザントレムが口を開いて何かを言う時、見るものはその僅かに飛ぶ唾が液体ではなく極々少量の砂であることに気づくだろう。彼女は砂精なのである。全身が砂で出来ている。人間のそれを真似た髪の毛は金髪に近いが、強風が吹くと短い髪の毛の尖端から砂がさらさらと流れ落ちる。顔を初めとした肌は白人女性のそれに近いが、これも彼女の気分次第で変幻自在になる白砂である。中性的な美貌に反して普段隠れている胸部は非常に豊かだ。服を着ることで形を人に近付けているが、彼女の本来の姿は砂精らしく砂の塊である。形は本来持たない。美貌を整えているのはこの集落の伝統みたいなものであるし、本人もそれを楽しんでいる。女性しかいないチェルノボグでは比較的男性的な性格をしているザントレムは、例えこの集落で一番性格がいいとは言えなくとも、一番に爽やかな奴だ、ということは言えるだろう。大賢者アドライアから生まれた彼女はネムコの姉妹に当たり、彼女同様地精の気の長さが色濃く出ている。五百年か千年くらい後にレキカからその位を戴くまで、勤勉な砂精は修行の毎日を送るだろう。

☆メルシー
 湖守という仕事は世襲制ではないのだが、今現在のチェルノボグの住人たちの中で現湖守のスクラクの後を継ぐのに相応しいのは誰かと言う話になると、その結論はメルシーという人魚に落ち着く。下半身が完全に魚のそれで、背中から二対の、翼みたいな鰭が生えていて、耳の部分も鰭になっているこのおっとりした女性は、湖守の賢者スクラクの何人もいる娘たちの中の一人である。六十七歳と、集落の中ではまだまだ若年に入るメルシーは、湖守見習いとして様々な湖の管理に必要な知識や技術を学んで過ごしている。最近では湖の生態管理及び漁業の管理をある程度母から任せられている。これは膨大な湖守の仕事のほんの一部でしかなかったが、責任感の強いメルシーは実際の所自分の手にあまるそれを日々頑張ってこなしている。漁業を最も頻繁に行うのは魚屋のフモトトに他ならないが、それ以外の住人もたまに釣りをしに湖を訪れるので、あまり湖の外に出ないメルシーも他の人々との交流はそれなりにある。怜悧な視線で以って湖を守るスクラクとは異なり、温和な視線で接してくれるメルシーは下手をするとスクラクより人望がある。本人は純粋に湖守の仕事に対する手腕の為に、スクラクより……なんてことは考えられずに心から謙遜する。
 しかし、彼女の将来には一つ頭を悩ませる問題があった。メルシーの妹である氷精バグラスが賢者の地位を目指しているのである。ここで言う賢者とは四つある賢者位の内の湖守の賢者のことを指している。そうなると湖守見習いのメルシーはどうにも具合が悪い。多情多産なスクラクの娘は十人くらいいたが、今存命しているのはその半分だ。そしてメルシーはその中で最年長である。因習深い田舎の通例として、その家の家業は長女が継ぐのがルール、とまでは言わずとも、暗黙の了解として存在するのである。更にメルシー以上に勤勉で頭脳も冴えているバグラスという妹は、実の所今すぐに湖守を受け継いでも(他の賢者の補佐は当然必要であろうが)問題ないくらいの天才児なのである。バグラスはバグラスで、一応湖守の仕事は姉に譲るのが正当だろうという思いと、誰よりも尊敬する母の仕事を自分が継ぎたいという葛藤が存在している。それはメルシーも分かっていて、だからこの二人が二人きりになるとたまに気まずい沈黙が流れる。こういう娘たちの複雑な、些細な確執にスクラクがまったく鈍感であったわけではない。上手い解決策は、彼女自身がメルシーを湖守見習いに選んだ以上なかなか出ないものであった。そこでこの賢者が思い描いたのは、一先ず湖守と賢者位をメルシーに継がせて、彼女が引退するか死ぬかしたら次の後継者にはバグラスを選ぶ……というものであった。動物種よりは植物種が、植物種よりは精霊種の方が寿命が長い傾向がある為、この妥協案は比較的穏健なものとして賢者の頭の中で温められている。そんなこととは露も知らない二人の姉妹は、たまには喧嘩なんかしながら湖の知識を母から学んで暮らしている。

☆パムヴァイマ
 パムヴァイマは墓守の賢者ラブラの娘である。歳は四十八の白いラミアで、百歳違いの姉に半百足のモモドメがいる。外貌は母ラブラの子にしては奇跡的なまでに清廉な色をしている。完全に蛇のそれである下半身は光沢を帯びた白銀にも見える白である。人間の部分も、まるで日光に一切当たったことがないかのように白い。上半身の随所には彼女が蛇の遺伝子を継いでいることを示す爬虫類的な鱗がある。もっともこの鱗は単に彼女が人としての形を整え切れていない証拠であるので、普段はラクネアから買った服で誤魔化している。その白い胴体の上に乗る顔もこれまた白く、更にはさらさらしたよく整えられた髪の毛も白い。パムヴァイマの容姿の中で色彩を持っているのはただ一点、燃えるような赤い双眸だけである。母ラブラの毒々しい紫色は微塵も存在しない。
 彼女が生まれた経緯はモモドメのそれに近い。二世紀記を迎えたラブラはまたしてもアドライアに子どもをねだったのである。この集落における子どもという存在は自分が死ぬ前の準備として後継者を生むか、或いはオアシスの中で必要な仕事が出て来た時にそれを任せる為に生むかのどちらかで、純粋種の人間が考えるような親愛は普通そこには存在しない。なのでアドライアはラブラに『もう死ぬつもり?』と問いかけたのである。一般の住民なら二百歳くらいで死ぬものはそれなりにいるが、賢者の列に加わっているものとして二百歳はやっとそれなりに賢者らしくなって来たくらいの年齢であるので、子どもを欲しがるということは本来あってはならないのである。ラブラは賢者としては色々な意味で例外的な人物で、アドライアの問いに『ずっと墓守なんか続けていると人肌恋しいのよ』と答えた。そうして自分と同種のラミアを生み出したいと言うと、人情屋の大賢者は『そう言われては仕方ない』と褥守のコイカをラブラの相手に指名した。そこにどんな策謀が働いていたのかは誰も知らない。刹那主義者のラブラはよく親しんでいるコイカと娘を造れることに喜んだ。生まれたパムヴァイマは蚕蛾の遺伝子を持つコイカの体毛の影響か、実に美しい白蛇のラミアであった。
 こうして生まれたパムヴァイマは享楽主義者二人の親とはまったく正反対に、勤勉な性格をしていた。墓守の仕事の一番重要な部分である法要こそラブラが行っているが、例えば彼女が面倒臭がってほとんどやらない墓場の掃除なんかは進んでパムヴァイマがやっている。墓守見習いという、ただでさえ損しかない墓守の、更に見習いと言うどうしようもなく面倒臭い仕事を率先してやる彼女は賢者たちからもよく誉められ、礼儀正しく謙遜する。墓守の賢者というものは賢者の中で唯一世襲制であるので、ラブラが死んだら彼女がそれを受け継ぐのである。もっとも、精力旺盛なラブラは賢者の中でもまだ若く、やりたいことがある以上は絶対死なないこの集落の住人であるので、パムヴァイマが墓守の賢者と呼ばれるまでは長い長い時間を要するだろう。パムヴァイマはそれでいいと思っている。なんだかんだ言って彼女は破天荒すぎる母ラブラを愛しているので、親子で過ごす時間が少しでも多くあれと願っているのだ。こういう具合で、ちぐはぐな親子はそれなりに仲好く、二人で墓場に暮らしている。

☆メデイン
 メデインの仕事はチェルノボグにあってはかなり特殊な部類に入る。彼女は大賢者アドライアに仕えるメイドなのである。封建的な、或いは貴族的な要素が存在しない大地であるので、多くの場合メデインは『大賢者様のお使い』と呼ばれる。立場の上ではザントレムやメルシー、パムヴァイマみたいなそれぞれの賢者位に伴う仕事の見習いのようなものであるのだが、大賢者に限っては千年経とうが一万年経とうが代替わりなんかしそうにないので、こういう呼ばれ方をする。事実、この集落で親から子へと受け継がれて行く『チェルノボグという場所』の話題をよく収集すれば、例えば八百年くらいは平気で生きるクジャの九尾一族の古い言い伝えにすら名前が出て来るアドライアが死んで代替わりすることなどチェルノボグの住人の誰もがあり得ないことだと考えているのである。それはメデインも例外ではない。この半人半馬の女性はあくまで『メイド』として仕えているのみであって、後を継ごうという気など微塵もない。
 メデインは他の一般的なチェルノボグの住民同様、文字を読むなんてことは出来ない。大賢者の仕事の中には幾らか文字を読めないとならない仕事もあるのだが、そういう所にメデインは手を出せない。それはたんなる技能の問題ではなく、大抵の場合においてアドライアが扱う書物は機密事項が書かれている書物である為、特殊な仕事をしている程度で地位は一般の住民と変わらないメデインがそれを手にすることは許されない。彼女の仕事と来たらアドライアの居城『白亞の森』に膨大に存在する植物の管理とそれから出来る料理である。この二つは別段アドライア本人でも出来るのであるが、如何せん一人でこの作業の総てをやるのは、アドライアが集落で一番(あらゆる意味において)力を持っていてもなかなか時間のかかる作業なのである。その手伝いがメデインの仕事だ。あまり農業的な処理をされずに育っている様々な果実や花、根菜を採集しては適宜食糧に変えて行く。植物由来の保存食というものはこの集落で一番手軽にとれるものであるので、メデインは特にそういうものを多く取る。すぐに食べる分であればアドライアが白亞の森の中に設けた『喫茶店』という名の東屋の傍に並んでいて、大賢者が人を迎える際はそこにあるものを出す。メデインはそういう表に出る部分にはそれほど関わらず、把握し切れない程大量の植物が傷まないように管理し、ジャムを初めとしたこの集落では珍しいものを作って過ごしている。
 そんな彼女が半人半馬の姿であることは既に触れた。メデインの場合、馬の特徴がある部分は悉く白い。白馬である。そして仕えている大賢者アドライアと布団屋のドリメアの娘である。植物種であるアドライアと幻想種であるドリメアが交わり、遺伝子改竄を行った結果、メデインは美しい馬の、四足の下半身に白い体毛と、プラチナブロンドの髪の毛と、そして螺子のように螺旋を描く一本角を額に持った、神々しさすら感じる姿で生まれた。この角の部分は元はドリメアの羊の角であったのを、アドライアが気に入って娘に組み込んだ。そうして出来た彼女のチャームポイントは白金色をしている。宝紬の賢者レキカなどは彼女に会う度に、もの欲しそうな視線をメデインの角に送って来る。工芸品の材料にも向いていそうな角は、多くの場合白亞の森を荒らす害獣の駆逐に使われる。丁度ドリメアが半世紀記を迎えた歳に彼女が冗談半分にアドライアの肉体を求めたことで生まれたメデインは今では百二十七歳にまで育った。美麗なメイドさんは今日も白亞の森の中を走り回っていることだろう。

☆ラム

七. 集落の外

☆ヴァルルーン
 二十七年前、娘である風精ルーヴァンが半世紀記を迎え、郵便屋として一人前の技能が備わったのをしかと見届けたヴァルルーンは旅に出た。娘は性格上不安な所もあったが、番いである大賢者アドライアに任せておけばこのやんちゃ娘も安心だろうと思って、好奇心に充ち溢れた彼女はチェルノボグを去った。これには幾つか理由があって、まず第一には彼女自身が外の世界を見聞したいという欲求を、当時の時点で六百三十九年にも渡る長い人生の極最初期から抱いていたというのがある。第二に、アドライアから幾つか、外界に存在する物を手に入れて持ち帰って欲しいと持ちかけられたこともある。それは大体がこのチェルノボグの地で不足している魔法遺産の入手であった。番いの一人であり一子を成した相手であり、そして母でもある大賢者アドライアの頼みとあっては断る理由もあるわけなかった。それから、酋長フィトリアの命令によれば、ヴァルルーンは一種の外交官として水晶砂漠の内外に存する龍の城へ彼女の代わりに社交的付き合いの為に出入りする義務があるとのことだった。また『風神』と渾名され、宝紬のレキカをして『地にアドライアあり、天にヴァルルーンあり』と言わしめた彼女は、風はおろか天候さえも操ることが出来る。その力を欲するものは水晶砂漠の中にも外にも結構な数いるのだ。そういう人々へ善意を届ける為にも、ヴァルルーンはチェルノボグの中でじっとしているなんて耐えられなかったのである。
 そういう塩梅で現在はチェルノボグにいない彼女の姿は、風精という種族上あまり適切には捉えられない。アドライアの番いの一人でありながら同時にアドライアの娘でもある彼女が人間の姿を取ると、明るい緑色が全身に満ちた可愛げのある妙齢の女性となる。娘もいつかはこうなるのかと思わせる豊満な肉体は文字通り掴み所がないが、運よく彼女の気まぐれによって触れることが出来ると非常に弾力に富んだ触感があることが分かる。緑色をしていること以外は人間と変わらない頭部も豊かな髪の毛を綺麗に整えながら伸ばし、長いもみあげの部分は髪飾りでお下げにしている。面には常にアドライアに似た微笑みを湛えている。これが風精としての姿であるが、場合によっては純粋種の人間に擬態し切ることも可能である。と言うよりも、チェルノボグの外において純粋種の人間以外の形を取るものは地域によっては悪魔扱いなので、彼女は仕方なしに無難な人型を取っている。様々な土地を人の姿で歩きながら、風神の見果てぬ旅はいつ終わるとも知れない。



 
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