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「小説」
風合文吾

蛆匣

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春から新生活が始まる。行ったことのない県へ一人で住む、その準備に実家で荷物をまとめていた。物置に何か使えるものはないかとあれこれ探していた。パンを食べる事がほとんどない実家で単なるオブジェと化したトースターがあったのを思い出し、それを掘り返すついでに物色していたのだった。

そこで一つの箱を見つけた。箱と言うより匣とでも言うべき、非常に精巧な装飾が為された箱だった。一辺が十五センチメートルほどの立方体で、表面には複雑な模様が彫刻されていた。何が描かれているのかとよくよく観察しても分からない。西洋建築に使われていそうな模様な気もするが、どことなく日本的でもある。仏教美術を思わせるようにも見えるし、オリエントのものにも思える。とかく、なぞの匣だった。匣である以上は何か入っているはずだと思って開けようとするが、開け口が見当たらない。べたべたと手触りを確認しながらその匣の細部を探ったが、どうしても開けられそうにない。

この物置に入っているくらいだから家族が何か知っているだろうと家の中に持ち込んで聞いてみた。祖父は知らないという。一番の当てが外れた感じだが、そう言えば祖父は婿養子だったと思い納得した。しかし、父母も祖母も、この家にいるだれもこの匣については知らないと言うのだった。結局彼はそのよくわからない匣を、興味本位で貰い受ける事になった。元々物置の奥で眠っていたものなので、誰も文句はなかった。しかし、三月も彼岸過ぎの時期、忙しさで引っ越し用のダンボールに突っ込んだまま匣のことは忘れてしまった。

引っ越し先は日当たりの悪い安アパートだった。近くに用水路が流れていて湿気も酷い。それでも家賃の安さだけで選んだ。一応下見はしていたが、実際に荷物を運びこむとここに数年単位で寝泊まりするのかと残念な気持ちになって来る。とはいえ金がないのも事実で、結局はいつか出世してもっと良い家に住む未来を夢見て今は雌伏と妥協するしかないのであった。

一緒にやってきた両親の手を借りながら持ちこんだ家財一式を適当な形に並べていく。漫画、CD、ゲームなど、娯楽のための箱は一番最後まで置いておいた。両親は一泊して帰るので、その後に広げるつもりだったのだ。その日は市内の旅館に泊まるという両親と一緒に、滅多に入らない温泉を楽しんだ。

翌日、空の本棚やラックを埋めようとダンボールを開けると、一匹の蠅が飛び出てきた。少し大きめのそれは、彼の田舎のような山間部ではそれほど珍しいものでもないので、さては荷物をまとめるときにでも入り込んだかと思って気にも留めずに叩きつぶそうとした。蠅たたきのような気の利いたものはないが、さりとて手で潰すのも気持ち悪い。彼は田舎生まれのくせに虫に触れないのだった。結局、ティッシュ箱の裏面で潰した。見れば、人差し指の腹ほどの大きさの、夏の盛りにでも飛んでいるような大きさの蠅で、彼は目を丸くせざる得なかった。

件の匣は、すぐに使うものでもないからとクロゼットに他のいくつかのものと一緒に押し込んだ。このクロゼット、二段に分かれていて上は衣服、下にアイロン、掃除機など普段は使わないようなものを入れておいた。匣を入れたのはこの下の段の方である。

それっきり、暫く匣のことなど忘れてしまった。新しい生活、見知らぬ土地、新鮮な経験は彼の興味を充分に刺激し、そこに来る以前のことなど遠い昔のことのように記憶の奥底に追いやってしまった。

彼がソイツを思い出すのは、夏の盛りを待たねばならなかった。

初夏、気温が上がり始めるころ。彼の部屋に蠅が多く湧き始めた。元々よく見かけたので、さして気にも留めなかった。土地柄なのだろうということで納得した。殺虫剤やら蠅たたきやら、虫用の道具が増えていった。

七月も終わりのころには彼も異変を認めざるを得なかった。部屋中無数の蠅が埋め尽くして、まともにいられる状態ではなくなっていた。ゴミをためたわけでもない、一般に言われるような個所は全て丁寧に清掃が行きとどいている。にもかかわらず、どこからか湧いて来たのか蠅たちは黒い嵐となって部屋を席巻した。

とてもそんな部屋には住めない、そもそもまともに目を開ける事も出来なければ息を吸うことも出来ないような状態であったので、友人の家に無理を行って泊めてもらった。その友人に指摘されて、何かやばいものがあるんじゃないかと気がついた。

翌日、ゴーグルとマスクを装着して彼は再び部屋の中に入って行った。もはや蠅が飛んでいると言うよりも黒いぶつぶつがうじゃうじゃと部屋の中を蠢いているような状態で、彼を見ても恐れる事すらなく、寧ろその体にたかって来るのであった。玄関扉は開けっぱなしにした。少しでも蠅が減ればと思ったのだが、ほとんど意味はなさそうだった。床には朽ちた蠅の死骸が無数に落ちていて剥き出しだった筈の床に黒い絨毯を敷いていた。

一体どこにこれほど、生物災害のような蠅を生み出すものがあるのか。マスクで遮られてはいたが、それでも彼の鼻は異臭を感じなかった。耳は蠅の羽音でいたずらに神経をかき乱すばかり、役には立たない。なんとか眼を凝らして、少しでも蠅が密集している所を探った。一番怪しい台所、ここを探った時点で持ちこんだ殺虫剤は底をついた。便所、風呂場、ともに変わらなかった。

居間に入ると明らかにクロゼット周りがおかしいことに気がついた。意を決して開け放つと、まるで風船が弾けて中のガスが放出されるように大量の蠅が飛んできた。その中にある、黒い塊に囲まれた立方体。あの匣だった。なんのとっかかりもなかった筈の匣から蠅が湧くように現れる。その隙間を強引にこじ開けると、大量の白い蛆が彼の顔面に飛びついた。







五年ほど前に書いた小品です。
虫が湧いて来る匣が書きたかったと言うだけのものです。

最近になって思うのはどうも風合はこういう、モチーフだけが先行していて主題なんぞまるでないような話を書きたがるようです。
しかしこの蛆匣はモチーフとしてはもう少し料理のしようがありそうなものなのでいずれ何かの形でもう少しマシな形にしたいところです。


 
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