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「徒然雑想」
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文学フリマ感想文第一弾

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一回

文学フリマでお隣になった吉田岡さんと紀尾井文学会OB会さんの本の感想文です。
※ネタバレを含むのでご注意ください。
※此日庵からの転載です。

『今夜、月の中へ』吉田岡氏

 まず第一に思ったこととしてはヒロインのアカネちゃんがとても可愛く書けている、ということでした。
 私も創作者で、しかもやたらめったら少女という存在に固執するのでヒロインの書かれ方というものには敏感なのですが、非常にアカネちゃんには惹きこまれるものがあるし、その惹きこまれる要素(記憶喪失の幽霊)というのが総てストーリーの重要な伏線ないし主題となっているのが実に上手いと思いました。
 初めは所謂「落ちモノ」系かと思ったのですが、どうも主人公であるカナメ君の彼女が出て来たあたりや、アカネちゃんの失くした記憶を探すあたりで単純なラブコメではない、少しミステリの趣も感じられる作品ですね。
 ただ、幽霊という存在をヒロインに立てるということは、またその記憶を探すというストーリーは、同時に「別れ」という結末を予感させるものです。実際途中まではお別れで終わるものと思ってましたし。
 このような話で主人公とヒロインが結ばれるオチというのは、双方ともに死ぬか、幽霊が幽霊のまま主人公の元に居つくかで、後者は少々ジュブナイル小説的なきらいがあります。この作品は前者を採用していますね。
 主人公の孤独、というのもヒロインと主人公を結びつける重要な糸なのですが、この辺は直截に書かれたテクストよりも寧ろ主人公の言動描写全般から周囲と距離をとっている風が出ていて、それが説得力を醸し出しています。
 気になったのはアカネとカナメ以外の人物(少ないですが)があくまで舞台装置としての機能以上のものを持っていないということでしょうか。特に春海はもうちょっと描写を割いても良かったと思います。彼女とカナメの訣別は一つ重要なファクターな訳ですし。あと段落の使い方はもうちょっとこだわって欲しかったですかね。
 ちょっと一読しただけだとよく分からない――多分作者にしか分からない設定だのプロットの類――部分があるので、その辺は機会があれば語っていただきたいですね。要君はいつ死んだんでしょ。というかほんとに死んでるんでしょうか。


紀尾井文学会OB会さま『Polyphony』

辻元紫苑氏「独り静かの家」

 新婚女性の一人称小説。
 マタニティブルー、とは違うのでしょうけれど、結婚して今までの家が家じゃなくなった寂しさが生々しく書かれていました。
 作者さんが後書きで触れてましたが、食べ物の描写が多く(断食中なのでとてもお腹が空きました)、そのことが余計に生活感を与えていて主人公の心理の生々しさに繋がっているように思いました。

公野祐也氏「詩集Ⅱ」

 散文詩が幾つか。
 詩の感想ってあんまり書いたことないのでどうやればいいのか分からないところがあるんですが、全体に理智的で冷静な視線を感じました。
 個人的には「きれいに死ねて良かったね」がお気に入りです。

久保藍星氏「千本桜、彼方」

 桜の散らない場所で「わたし」と「私(わたくし)」との交流が描かれています。
 改行が非常に少なく、鉤括弧もほとんどなし。会話も総て地の文で書かれているという一風変わった体裁の小説です。
 「私」という女性が非常に魅惑的、かつミステリアスに表現されています。
 何か、話の背後に色々な設定がありそうな作品ですが、一読しただけだとちょっと想像に困りますね。

大橋崇行氏「相楽伝抄」

 古本『相楽伝(さらくでん)』を巡っての話です。と言ってもプロットの大半は相楽伝の内容を語り手が読者に伝えるというような形式をとっていますが。たまに入る語り手自身の挿話はもっと膨らませても良かったような気もします。
 所々に散りばめられた漢字のルビのセンスが非常に高いです。
 この方は文学研究者(博士)なので語彙や表現に関しては流石としか言い様がないですね。などと修士に入りたての私が言うと怒られそうですが。
 ただ、近世文学や明治文学についてのちょっと普通の人には耳慣れない用語が結構出て来るので、そういう意味では人を選びそうな気もします。

同氏「大橋崇行のラノベ道 出張版 ~『妹がスーパー戦隊に就職しました』のこと~」

 コラムというかエッセイというか、或いは批評でも良いかもしれません。
 大橋氏はライトノベル執筆者でもあるのでその裏話や『妹がスーパー戦隊に就職しました』の制作秘話など。
 「ラノベ」というものを考えるには良い資料だと思います。ただ、文学とかその辺の分野の人は大体そうなんですが、読者への要求レベルが(多分自分で思ってる以上に)高いので結構知識が要ります。或いは勉強になります。

はる氏「しのぶれど」

 二頁の百人一首論。
 昨今の『ちはやふる』ブームの弊害として起こってる百人一首の誤読について触れ、「リアル」「リアリティ」について言及しています。
 はる氏によれば近年よく言われる「リアル」は「身近に感じられるかどうか」のレベルであり、百人一首に描かれる「リアル」は「私たちを取り巻く世界のどこかに作品に描かれた状況が在るかもしれない、存在可能性のこと」なのだそうです。
 そして後者の「リアル」こそ文学である、と。ちょっとここには引っかかるものがあるので、ちょっと色々勉強してみようと思います。

総評

 全体的に非常に知的レベルが高い方々の作っている同人誌なので、感想書いてる私の無知が露呈されている感が否めません。
 いや、しかし、このレベルで文学を考えている方々にうちの同人誌渡したのかと思うと畏れ多いですね。
それくらいにクオリティの高い一冊でした。




文責:風合文吾
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