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死へと向かう少女――第一巻本文サンプル――

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――タナトス――へと向かう少女

 第一巻 作・風合文吾


 ――この世界が、誰かの夢ならいいのに――
 疲れ切った身体をベッドの上に投げ出して、目を瞑る。厭なモノばかりが見える。望まないモノばかりが聞こえる。汚らわしいと思えば自分自身に跳ね返ってくる。夢、夢、夢、誰かの夢なら、早く目覚めてしまえばいい。
 真っ白い蛍光灯の灯りに掌を透かしてみる。流れる血潮の色も見えはしない。そんな意味のない行為をしてみたい、程度には瑛理の心は疲れているらしかった。
「行ってきます」と叔父さんに声をかけて学校に出かけて、いつも通りの日常を過ごして……それで終わりなら、別に構わなかった。今日という日は些か瑛理には辛すぎた。或いは、彼女の精神が弱いだけなのかも知れないが。

 ――第Ⅰ章 無知の揺籃より、瑛理の物語の始まり。


 絵を描いている。
 人形じみた病的に白い腕が自在に絵筆を動かしている。細い指は踊るように画布の上を這いまわる。その少女は全身が白かった。髪こそ黒かったが、肌は病的に白く、着ている服も、白一色のワンピース。絵画を描くには全く適さない服装に見えたが、彼女の服には――肌にさえも――一点の染みも存在しないのである。彼女が色のつくことを拒んでいるように、色彩もまた彼女に触れることを怖れているようだった。
 夜である。カーテンを全開にして、外の景色を眺めながら絵を描いているのだ。端正に整った顔に表情はなく、透徹した怜悧さだけがあった。そうして、彼女の瞳は、外の景色を眺めてはいなかった。
街の絵だ。いくつもの四角い建物がネオンを灯して聳え立っている。人の群れがその下を歩きまわっている。顔は一つも描かれていない。夜の街、都会の喧騒、星はなく、月もない、空さえもビルディングに遮られて見えはしない。
 それはいつか見た記憶。
 少女がまだ知恵を持たなかった頃に見た、「楽しい街」の記憶の邪な復元図。

 ――第Ⅰ章より 無知の揺籃、白い少女の登場。


 我々が「現代的自殺」へと至る根底には、現代社会――唯物万能主義と拝金至上主義の生み出した文明に対する絶望が存在する。そして、その絶望の淵より飛翔したいと願うことが、我等に「宇宙」を胚胎させる。物質と精神の消滅する地平、人類史に定められし新たなる階梯へ至る第一歩として、この「現代的自殺」が存在する――。

 ――思想書『宇宙卵』ノ内「現代自殺学入門」より抜粋。


 痛覚。邪魔なモノ。羊にないもの。林檎。溶けていくモノ。白い塔が聳え立った頽廃的な街の中で男と女がまぐわいあう。生き血を垂れ流した女の腹から水子の一匹生まれ落ちて来る。猿の化け物みたいな顔をして魚みたいな目を向けている。何処へ? 世界へ。ナイフを持って母親を殺す夢を見ている。痛みがない人間の世界で一人の嬰児が叫んでいる。呪いの言葉を叫んでいる。無音の音が車の走る街角に満ち満ちて、堕胎児の声はどこどこまでも澄んでいた。独りきりだから幸せなのだよ。馬鹿は。
 白い子どもの群れに鳩が群がっている。羊が見ている。鳩を殺す子どもを見ている。楽しげに鳩血色に染まっていく子どもたちは恐るべき子どもたち、嫌らしい媚態に体を委ねた娼年たち。汚らわしい大人よりは清浄な彼らに悪戯してやろうと道化師の来る。肉に塗れた道化師が、仮面をつけて、刺青をくねらせて、頭を振り振りやってくる。羊が見ている。黒い羊がそれを見ている。ノコギリとナイフの惨劇を羊が見ている。真昼の日曜日ののどかな公園で娼婦が仕事の前に香水を首に振りかけるかのように、道化師は子どもに殺された。羊が見ていた。黒い羊が見つめていた。

 ――黒羊宮ノ一「素晴らしき愛の世界」冒頭より、一部抜粋。




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